秋田県にかほ市立上郷小学校

2011年
取材

郷土の特性を生かした「食べ物シリーズ」

 上郷小学校は、自然科学観察コンクールには2009年に初応募。その翌年(第51回)、サイエンスクラブの『だんごの研究』でオリンパス特別賞・指導奨励賞・学校奨励賞のトリプル受賞を果たした。風光明媚な土地で育まれている「科学する心」とは?指導した齊藤成人先生にうかがった。

郷土の食べ物を研究のテーマに

 グラウンドの向こう側に雪をいただく鳥海山がくっきりと見える。視界をさえぎるものは何もない絶景だ。
「鳥海山はこの地域のシンボル、心のよりどころですね」。ゆったりした口調の齋藤先生は地元の出身。上郷小学校は自身の母校でもある。周囲はのどかな田園風景。子供たちは兼業農家の家庭が多いという。
 「田舎の実生活に密着した研究が面白いのでは」とサイエンスクラブ(4年~6年)の5人と一緒に取り組んだのが、昨年度の『だんごの研究』。「これまでにない食感、おいしさをもつ新しいタイプのだんご」を目指して白玉粉、片栗粉、小麦粉、コーンスターチ、そば粉などを素材にさまざまな組み合わせでだんごを作り、ヨウ素デンプン反応や顕微鏡画像を観察、最終的に3タイプの新しいおいしさにたどり着いた。
 「食べられる実験をやっている!」と学校中の子供たちも興味津々。他のクラブの子ものぞきに来ては実験後のだんごを一緒に試食した。
 「食べ物がテーマだと子供たちものってきます。平成19年度から『笹巻のひみつをさぐる』『甘酒の研究』『ドライフルーツの研究』と毎年、身近な食べ物やおやつを地域の知恵も拝借しながらとりあげてきました」
 

画用紙を張り合わせた蛇腹式のノート。学んだことをカテゴリー別にまとめられる


校庭はもちろん、どの教室からも
鳥海山が見える

 

夏休みの試行錯誤を超えて

 必修クラブの活動は週に1回と時間が限られているため、主な実験は夏休みに集中して行った。
 「実はおいしいだんごがなかなかできなくて……。みんなも『わかんねぇ』と途中で行き詰まっていました。夏休みはほぼ毎日、学校に来て実験。水泳の練習やスポーツ少年団の活動、ロボットコンテストへの出場準備などもあったので子供たちは忙しかったと思いますが、そんな中で試行錯誤を重ねていきました」
 2学期に入ってからも6年生を中心にねばり強く研究を進め、なんとか10月末のシゼコンの応募に間に合わせることができた。

「なんで?」という問いかけが刺激に

 「子供たちは本当はいろいろなことを知っているのに、授業中に構えてしまうと発信者になりたがらないんです。だから、『なんで?』としょっちゅう問いかけています。しつこいかもしれませんね、私の追求は」
 齋藤先生は一昨年から理科の授業を受け持っている。秋田県は平成21年度から「小学校まなび・ふれあい充実事業」で小学校での一部教科担任制を取り入れているためだ。
 「じっくり待って問いかける」のは学級担任の時も、理科を担当する時も変わりはないが、特に理科の授業では「予想をたてる」段階では盛り上がっていた子供たちが、「予想に基づいて実験や観察を計画する」時になるとトーンダウンしがちだ。そんな時こそ、「ほんと?」「なんでかな?」という先生の言葉が発想を飛躍させる突破口になっていく。 

「がんばった自分がカッコいい!!」

 心がけているのは、クラス全体が自由に発言したくなるような雰囲気を作ること。1クラスは11人~20人と少人数なので、1人ずつ順に指名し、同じ考えの場合には「どういう点が同じなのか」を話してもらう。
 「シャイでナイーブな子にしかできないことも必ずあります。例えば『君の慎重な観察がよかったね』と言ってあげれば、その子はホッとしますよね。緊張してしまうと、思考も働かなくなってしまいます」
ありのままの自分が受け入れられたと感じた時、子供は肩の力を抜いて発言できるようになる。
 もうひとつ、授業で大切にしているのは、最後の5分間ほどの“振り返り”。ここで、「今日、わかったこと」だけでなく、「自分ががんばったこと」や「友だちへのメッセージ」を学習シートに書いたり、発表する。
 「『実験をがんばれた自分はカッコいい』とイメージ良く学習を振り返ることがとても大切です。小学生の場合、反省してしまうと、人の指導を待つようになる。自分のいいところ、チャームポイントを自覚させてあげたいと思います」
 学習シートを返却する時にも、「ほんとだね~」など短文で共感するコメントを書いて、子供の心に寄り添うようにしている。
 

理科室に掲示された「理科学習のすすめ方」。6番の「ふりかえり」が大切

理科室に掲示された「理科学習のすすめ方」。
6番の「ふりかえり」が大切


 

自治体からの理科教育のバックアップ

 理科の学習に結びつく教材が豊富にある環境とはいえ、授業で改めて関心を持たせるには日々の工夫が必要だ。例えば「流れる水のはたらき」では学校内の地形を利用して川のシミュレーションを作り、その時に撮った子供たち自身の画像を学習シートにあらかじめ取り込むなどの試みも行った。
 夏休みの自由研究は全員が提出する。レポート形式であればテーマは自由だが、6~7割の子供は理科を選ぶ。テーマの相談は担任教師が行うが、意見を求められる時は「このテーマは壮大すぎるから、もっとピントを絞った方がいいよ」とアドバイスすることが多い。教育熱心な家庭が多く、また自治体も理科教育をバックアップしている。夏休み前には、市内の小・中学生の保護者を対象に「理科研究の進め方」という講座が開かれる。3年生の磁石、5年生の電磁石などの授業は、市の施設である「フェライト子ども科学館」と連携して実験を行っている。
 また、サイエンスクラブの活動は「齋藤憲三顕彰会研究助成」に支えられている。これは秋田県出身で、TDKを創立した齋藤憲三氏(1898~1970)にちなみ、県内の小・中・高校の自然科学の研究を助成するもので、約40年の歴史がある。同校は4年前から齋藤憲三奨励賞も毎回受賞、昨年度は特別賞に輝いている。

今年は食べ物シリーズの第5弾

 今年度のサイエンスクラブは4年生2人、5年生1人、6年生3人の6人。「先輩に続け」とシゼコンへの応募を意識している。「簡単にはいかないよと言っているんですが、みんなやる気満々です」。6年生のリードで話し合い、今年のテーマも既に決定した。いくつもの候補から絞り込まれたのは食べ物シリーズの第5弾。果たして今度はどんな新しいおいしさに出会えるのか?
 「子供が言ったことはいつもメモしていますね」と齋藤先生。何気ないひとことを受け止め、そこからヒントを引き出し、一緒に考えていくキャッチボールが面白い。「持っている力を惜しみなく発揮させてあげたい」。そんな思いで齋藤先生は毎日、子供たちと向き合い続けている。
 

観察や実験に使う道具は子供にもわかりやすく収納されている

サイエンスクラブが活動するのは
理科室や家庭科室


理科室の実験器具について学べるコーナー。イラストに描かれた器具の名前や使い道が答えられると「最高達人」として認定証がもらえる。「今日の空模様は?」の コーナーもわかりやすく雲の名前を解説している

蚶満寺の松尾芭蕉像。
17世紀末に芭蕉が訪れたころの象潟は、
海に小島が点在して「九十九島」と
呼ばれていたが、1804年の地震で
海底が隆起した

 

学校プロフィール

学校プロフィール

秋田県にかほ市立上郷小学校
ホームページ
〒018-0153 秋田県にかほ市象潟町小滝字舞台64
電話 0184-44-2214
児童数=180人 各学年=1クラス
齋藤成人

齋藤成人先生(52歳)
理科教務主任(3・4・6年生担当)
サイエンスクラブ顧問

にかほ市立上郷小学校は秋田県の最南部、日本海沿いの象潟(きさかた)にある。松尾芭蕉が『奥の細道』で訪れた最北の地として知られるところだ。秋田・山形の県境にそびえる鳥海山(標高2236m)の麓に位置し、校区全体が鳥海国定公園に含まれている。同校の前身は明治8年に創設された小滝小学校。にかほ市は2005年、由利郡仁賀保町・金浦町・象潟町の3町が合併して誕生した。

学校取材レポート
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