第52回入賞作品 中学校の部
2等賞

貝類標本〈505種〉
―なぜ福井の海岸には多くの種類の貝が打ち上がるのか?―

2等賞

国立福井大学教育地域科学部附属中学校1年
吉村 太郎
海岸
  • 国立福井大学教育地域科学部附属中学校1年
    吉村 太郎
  • 第52回入賞作品
    中学校の部
    2等賞

    2等賞

研究の動機と経緯

 今年1月に地元の海岸で「ビーチコーミング」があった。砂浜に打ち上げられた漂着物を歩きながら採集する催し。初めての参加で50種類もの貝を採集した。その後、標本の種類を増やすことを目的に、坂井市の三里浜をはじめとする福井県嶺北地方の様々な海岸や岩場に行き、160種類を超える貝を採集することができた。しかし、図鑑の貝に比べて“地味な”個体が多い。色彩の豊かな貝や特徴的な貝の分布は、多くが「和歌山県以南」と表示されていることに気がついた。調べてみると、和歌山県・潮岬沖には大きな珊瑚礁があることが分かった。「珊瑚礁に生息する貝が打ち上がっているのでは」と推測し、3月に潮岬と周辺の河川の汽水域へ採集に行った。
 潮岬の貝は福井の貝とは種類が違い、同じ種類でも大きさが異なっていた。潮だまりや岩場のすき間などにいるカサガイやヒザラガイは、福井の貝の2.5倍~5倍もある。和歌山県での貝の採集は干潮帯で行った。干潮と満潮の差は、福井では30cmほどだが、和歌山県では180cmほどもある。そのため岩に張り付いているイガイ科やイタボガキ科の貝も多く採集できた。福井との違いは海水の温度だ。3月なのにあまり冷たくない。さらに気がついたのは、潮岬の西側でたくさんの貝が打ち上がり、東側にはほとんどなかったことだ。
 同定できた和歌山県産の貝は約100種類だ。明らかに福井の貝とは違うものばかりで、改めて凄さを感じた。アマオブネガイ科やクサズリガイ科の貝も初めて採集できた。興味をもったのが「黒潮の貝」だ。黒潮の本流域にあり、多くの貝類学の研究者が訪れている沖縄の慶良間諸島に属する阿嘉島で5月初めの4日間、採集活動を行った。140種以上の海産貝を採集できた。
 さらに沖縄には、有肺目の陸貝マイマイガイ(カタツムリ)が大量にいた。福井県内の各地で陸貝の採集を行い、キセルガイやヤマキサゴの採集にも成功した。淡水貝の採集も福井市などで行ったが、なかなか種類を増やすことができない。豊富な自然環境のある琵琶湖で調査を始め、大津市堅田漁港の大きな貝殻捨て場から、10種類を超える淡水貝を採集することができた。

採集を通じた考察

《1》三里浜および福井県沿岸の貝について

(1)打ち上げ貝は主に二枚貝類だ

 二枚貝の貝類全体に占める割合は18%だが、福井県沿岸では二枚貝(イガイ科・ウミギク科・フネガイ科・イタヤガイ科・ニッコウガイ科・マルスダレガイ科など)が多く打ち上げられている。福井県沖の海は、二枚貝の生息する条件(水温、水流、砂の性質、底質表面のバクテリアなど)が満たされているのではないか。

(2)サツマアカガイが打ち上げられているのは

 あわら市波松海岸で3月、大きめの二枚貝サツマアカガイを採集した。本来が九州地方に分布する貝だ。2つの説(幼生の時にプランクトン状態で流されて、福井県沖で成貝になった。九州地方で成貝になり、死後、貝殻が流されて打ち上げられた)を立てたが、貝の専門家に聞くと「福井県沖にも分布している」という。図鑑にも書いていないことだ。

(3)打ち上げ貝は“漂着物”

 海面に浮かんで岸に流れ着くのが漂流物。打ち上げられた貝のほとんどは、海底を流されてきた漂着物だ。

(4)打ち上げ貝は種類によって状態が違う

 打ち上げ貝は、本当は標本として相応しくない。海底を流されている間に、砂面との接触で巻貝の殻頂や二枚貝の輪肋が磨り減ったり、本来の光沢が損なわれたりして、生貝時の殻の状態が変化しているからだ。しかし利点は、普段は手の届かない沖合いの貝も打ち上げられることだ。貝の種類によって決まった特徴も見られる。マルスダレガイ科の二枚貝は、殻頂側に小さな穴が開いていることが多い。ツメタガイなどの肉食貝に食べられた跡で、天敵の多い環境にいたことが推察できる。

(5)福井の貝の色彩の特徴

 太平洋側や南の貝に比べて色彩の豊かさに欠ける。一般的に色彩が豊かな巻貝も、福井では比較的地味なものが多い。ただしこの場合の「福井の貝」は、沖合い数十mの「浅海の貝」だ。低緯度地域の貝も高緯度地域のものに比べて色彩は派手だが、同じ低緯度地域の深海の貝には色の鮮やかさは見られない。日当たりの多少が、色彩に関係しているからだ。福井の貝の色彩も、日当たりが少ないために白色や褐色、黒色のものが多いのだ。

《2》黒潮の影響と貝類

(1)海産貝の繁殖と黒潮の役割

 海産貝の繁殖の多くは「卵生」だ(岩場で生息し繁殖する「卵胎生」の貝もある)。卵生は卵→トロコフォア幼生→ベリジャー幼生→稚貝→幼貝→成貝という段階を経て成長する。赤道付近から日本沿岸に流れ込む黒潮は、多種類の貝の幼生を運ぶ。幼生の適地の選択によって分布も違ってくる。

(2)黒潮の影響を受ける海の貝は多種多様

 和歌山や沖縄では多板類や頭足類、腹足類、二枚貝類など、ほぼすべての種類の貝類生物を採集できた。黒潮の影響を受ける海は「貝類生物の生息種の幅が広い」。

(3)貝殻の色彩が同じ種類でも違うのは

 捕食されるのを防ぐために、自らが殻の色彩を変えているためだ。透明度の高い沖縄の海では、色彩の派手さは一種の「警告色」だ。透明度の違いには、海流とプランクトンの量が関係する。沖縄はプランクトン量が少ない。福井は黒潮と北からのリマン寒流によりプランクトンは沖縄の10倍以上だ。そのために透明度は低く、光が届かない。環境に合わせて、分布の広い貝ほど色彩が変わってきたのだ。環境による影響は、淡水産の貝にも言える。

(4)福井の貝と沖縄の貝の比較

色彩や大きさ、種類、分布などが違う。環境的に起因するのは水温や海流、日当たり、プランクトン量、珊瑚礁、干満の差などだ。とくに珊瑚礁は冬の水温が18℃以上の奄美大島以南に見られ、沖縄では珊瑚礁特有の貝もタカラガイ科33種、イモガイ科28種の生貝が採集できた。これらの特徴は「個体群密度が低いこと」で、同じ種で集団生息している貝は少ない。珊瑚礁にすむ貝(タカラガイ科、スイショウガイ科、シャコガイ科など)は分厚い殻をもつのも大きな違いだ。

《3》淡水貝において福井の環境とは

(1)福井での採集で思ったこと

 福井市内では11種が採集できたが、淡水環境はよいとは言えない。唯一イシガイ科を採集した養魚場裏の用水路には、魚の飼育水が流れ込んでいた。

(2)大津市堅田漁港での採集

 琵琶湖はバイカル湖、タンガニーカ湖と並ぶ「古代湖」だ。固有種も多く、滋賀県では60種が確認されているが、カワシンジュガイ科やマメシジミ科、ミズツボ科などは今回採集できなかった。

《4》自然の豊かさと陸貝

(1)なぜ陸貝は自然の豊かさに関係しているのか

 陸貝は雑木林の落ち葉の間や倒木の下など、適度に湿った、ほぼ一定の温度環境を好む。長距離の移動が不可能なため、種別に生息分布が決まっている。「採集するなら神社から」と言われるのは、神社は昔からの自然環境が守られているからだ。沖縄で陸貝が多いのも、自然が多く残っているからだ。

(2)なぜ陸貝には巻き貝しかいないのか

 陸地での移動に適した体のつくりだからだ。巻き貝以外の貝は、水のない所では栄養の摂取も繁殖もできないという。

《5》外来種

(1)外来種の問題

今回10種類ほど採集した。外来種の繁殖で在来種の減少が懸念される。生態系の乱れで、他の生物にも影響があるのではないか。

(2)アフリカマイマイ

沖縄・古宇利島で見つけた。戦前に食用として移入され、繁殖したものだという。

(3)タイワンシジミ

福井市宝永の農業用水路で大量に繁殖していた。初めは知らずに、在来種のヤマトシジミと同定していた。

(4)スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)

1980年代に食用輸入された。今回は琵琶湖畔で多数の卵塊を確認した。福井県には入っていないが対策が必要だ。

テーマ「なぜ福井の海岸には多くの種類の貝が打ち上がるのか」の理由:福井県に分布している種類が多い▽潮通しがよくプランクトンの豊富な沿岸▽海底の砂質の種類が豊富▽急に深くなる沿岸▽イシダイやタコなどの捕食者が少ない▽人工の造営物が少ない。

指導について

指導について福井大学教育地域科学部附属中学校 木下 慶之

 「僕、貝を集めているのですが、理科研究として出してみたいんです」。春先、職員室に来て研究方法について質問に来た吉村君。「ただ集めるだけでなく、そこから分かることを自分で分析し、レポートにまとめられるといい研究になるね」という助言はいたしましたが、私の想像を超える研究を吉村君は成していました。8月末に提出してきた標本数は500点を超え、標本箱20数箱に及ぶ、壮大な標本と丁寧に研究内容が記されたレポートでした。福井県内だけでなく、日本各地の貝標本にも着手し、「標本から何を明らかにすることができるか」、研究の意図を持って採集に取り組んでいました。さらに彼の探究心に感動したのが、専門家の方々との交流です。メールや手紙で貝の同定のための相談や質問を何度も繰り返して研究をすすめてきました。できあがった成果物だけでなく、探究の過程も記録として残し、資料としました。研究者の熱意が伝わる研究になりました。

審査評

審査評[審査員] 大林 延夫

 博物学は、それが欧米の貴族達の優雅な趣味であった時代から、常に自然科学の根幹をなす学問です。それは自然のありのままの姿から、人間の叡知を超えた様々な知識を得る最高の手段だからです。フィールドに出て、昆虫や貝殻、植物、鉱物などを採集し、名前を調べ標本にする。その過程では、自然に関する様々な知識が要求されますから、自ら調べ、工夫し、疑問を解決することによってその理解につながります。
 福井の海岸から始まった吉村君の貝集めは、和歌山、沖縄の海へと範囲を広げ、その生息環境と種構成や多様性の違いに気付き、その謎解きに挑戦しています。さらに淡水や陸地の貝類にも視界を広げ、やがて外来種問題にまでたどり着きました。標本が持っている歴史の証人としての役割にも思いを馳せています。本物の実物教育の姿がここにあります。博物学の王道を歩む吉村君のすばらしい研究が今後さらに飛躍する事を期待します。

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