第52回入賞作品 中学校の部
3等賞

ハダカアリの研究Ⅱ
―巣をどう防御するか―

3等賞

静岡県浜松市立蜆塚中学校2年
渡邊 麗弥
  • 静岡県浜松市立蜆塚中学校2年
    渡邊 麗弥
  • 第52回入賞作品
    中学校の部
    3等賞

    3等賞

研究の動機

 小学3年生の時からクロヤマアリやルリアリなどの飼育観察を行ってきた。中学生になり「ハダカアリ」のことを知った。生態や生息分布がよく分からず、飼育も難しいアリだという。昨年はハダカアリの採集・飼育・観察によって巣作りの様子、働きアリや女王アリの行動、さらにアリがアリをくわえて運ぶ「タクシー行動」、死んだふりをする「擬死行動」などを観察した。今年はトビイロシワアリとの関係を中心に継続研究する。

【ハダカアリ】アリ科フタフシアリ亜科ハダカアリ属。働きアリの体長が2㎜ほどの小型アリ。体色は黒~褐色。フタフシアリ亜科の通り腹柄節が2節ある。頭部と胸部の背面に立毛がないことからこの名が付いた。日本にはほかにヒヤケハダカアリ、ヒメハダカアリなどの種がある。神奈川・静岡県以南の本州~沖縄に分布し、最近のDNA分析で日本にはマレーシア系とハワイ系の2系統あることが分かってきた。

野外での観察

ハダカアリの巣がある浜松市雄踏文化センターの駐車場花壇(巣A~D)、磐田市桶ケ谷沼ビジターセンター前(巣E)で8月に観察した。なぜか各巣のそばには必ずトビイロシワアリ(フタフシアリ亜科シワアリ属)の巣がある。

《1》ハダカアリの活動時間と路面温度

ハダカアリの時間ごとの出入り数と路面温度との関係を、巣Aと巣Cで調べた。

《結果》

午前10時~11時が巣から出るアリの数が多く、最も活動している時間帯だ。正午過ぎに路面温度が55℃を超えると出入り数は少なくなる。路面温度が下がる夕方にまた少し、出入りの活動が活発になり、午後5時ごろになると帰巣するアリが多かった。大きな巣Cでは女王アリも正午近くに巣口から顔を出したが、すぐに引っ込んだ。タクシー行動も観察できた。雨の日には巣外で活動する様子は見られなかったが、雨上がりで路面が濡れている時でもハダカアリは活動していた。トビイロシワアリは1匹もいなかった。

《考察》

他のアリが活動しない雨上がりや日中の暑い時間帯が、ハダカアリにとって活動域を広げ、分巣するチャンスなのかもしれない。

《2》ハダカアリが運んでくるもの

ハダカアリのえさは何か、巣(A・B1・C)に運ぶものを調べた。

《結果》

巣Aでは何かを運び入れる様子はなかった。巣口は“針先”ほどの小ささだ。巣B1とCではコニシキソウ(トウダイグサ科の一年草)の花または実とみられるものを運び入れていた。コニシキソウはハダカアリの巣の近くに必ず生えている。巣B1の巣口の直径はマッチ棒の太さほどで、巣Cの巣口はコンクリートの隙間にある。巣B1にはトビイロシワアリの死がいを運んでくる様子も見られた。

《考察》

ハダカアリはコニシキソウの蜜を主なえさとし、素嚢(そのう)にためて運んでいるのではないか。コニシキソウの種子をトビイロシワアリが巣に運び込むことは知られているが、ハダカアリでは確認されていない。ハダカアリが運んだ実が、コニシキソウの種子かどうかはっきりしない。巣口が小さいため、大きなものは運び込めない。えさとして与えた蚊も、巣の外で食べていることが多 かった。巣の存続のため、栄養源のコニシキソウが近くにあることは重要だ。ハダカアリが、自分の巣の前にトビイロシワアリの死がいを積み上げていた。戦闘を好まないハダカアリが、巣の防御のために死がいを運んできたのだ。

《3》ハダカアリの巣の条件

《結果と考察》

どこの巣も日当たり、水はけがよく、近くにコニシキソウが生えていた。ハダカアリが虫の死がいを見つけても、付近にいるトビイロシワアリやクロヤマアリに追われていた。コニシキソウはえさや隠れ場所としてちょうどよい。ハダカアリとトビイロシワアリの巣は、いつも近くにある。お互いにとって、何か利点があるのではないか。

《4》巣の乗っ取り

《結果と考察》

ハダカアリが、至近距離(約3cm)にあるトビイロシワアリの巣をたびたび覗いたり、巣口に入り、すぐに出てくる様子が観察できた。自分の巣を間違えることはない。その翌日の雨上がりに、トビイロシワアリの巣は、ハダカアリの巣に変わっていた。水に弱いトビイロシワアリが雨で移動したのか、ハダカアリが雨に乗じて、トビイロシワアリの巣に攻め入ったのかは不明だ。トビイロシワアリの死がいはなかった。
 その反対に、ハダカアリの巣Bがトビイロシワアリの巣になっていた。互いの巣口は約7cmの距離だが、地中でつながっていたようで、ハダカアリはいなくなっていた。その3日後、巣Bから約70cm離れた場所に、ハダカアリの巣B1ができていた。そして雨上がりの朝、巣B1の巣口にトビイロシワアリの死がいを運び置いていた。トビイロシワアリのものになった巣Bから、トビイロシワアリはいなくなっていた。
 今まで、ハダカアリよりもトビイロシワアリが優位と考えていた。しかし両者は活動域を同じくし、互いに利用し合う関係にあるのかもしれない。さらに、雨上がりに活発に活動するハダカアリと、雨には弱いと考えられるトビイロシワアリ。雨を境に巣が変わることが多かった。今後は雨との関係にも注目したい。

《5》ハダカアリの巣に敵(トビイロシワアリ)が侵入したときの対応

《結果と考察》

 野外や飼育ケース内で出会っても戦わないハダカアリとトビイロシワアリだが、巣にトビイロシワアリが近づいたときは、ハダカアリが追いかけて戦った。巣口から離れたところで1匹のハダカアリが咬みつき、間もなく援軍の1匹がやって来た。他のハダカアリたちも近づいて来るが加勢せず、トビイロシワアリ1匹対ハダカアリ2匹の態勢。ハダカアリは3匹以上では戦わなかった。小型で少数のハダカアリにとっては、戦いをできるだけ避けること、戦いになっても被害を最小限に抑えることが、巣を守るための生き残り戦略の1つではないのか。戦っている最中にピンセットでつまんでも、トビイロシワアリに咬みついたハダカアリは離れなかった。巣を守るときには攻撃的に戦うのだ。トビイロシワアリが1、2匹の場合には、ハダカアリの巣は打撃を受けない。今回自ら倒したトビイロシワアリを巣の前に積むことはなかった。この2回の実験(トビイロシワアリが1匹の場合、2匹の場合)で計3匹のトビイロシワアリを失った。アリ好きな僕は、さらにトビイロシワアリの被害を出したくなかったし、ハダカアリの巣を今後も継続して観察していきたいので、これ以上数を増やしての実験はしなかった。おそらくトビイロシワアリが大勢になれば、ハダカアリの巣は全滅していたと思う。
 今まで両者の力関係は、トビイロシワアリ>ハダカアリだと考えていた。しかし、1匹対1匹ではハダカアリが勝った。トビイロシワアリが必ずしも、いつも優位だとは考えにくい。活動域を同じくする両者は、お互いの存在を利用することで巣を守り、巣の繁栄につなげているのではないか。

指導について

指導について浜松ダヴィンチキッズプロジェクト 細田 昭博

 ハダカアリは南方系の小さなアリで園芸植物の移動に伴って分布を広げているといわれている。昨年、渡邊麗弥くんを担任した私は家庭訪問でアリ好きを知り、小学生の時から飼育しているいろいろな種類のアリの話で盛り上がった。ハダカアリは飼育が難しいアリであること、多雌性で雄アリは後で生まれてきた雄アリを殺すことなどを話した。その後、一緒にハダカアリ採集に出掛けてからは麗弥くんの気持ちはすっかりハダカアリの世界に入り込んでいった。自宅でのハダカアリの飼育は試行錯誤を繰り返し、野外でも粘り強い観察を続けた。観察場所は自宅から離れたところにあるため、夏休みには毎朝保護者に自動車で送ってもらい、夕方迎えに来てもらう生活が続いた。これまで研究を続けてこれたのは、部屋全体をアリの飼育装置のような状態にしても許容する保護者の理解と協力があったからと思う。今後も麗弥くんとともにアリの研究を続けることで見守っていきたい。

審査評

審査評[審査員] 邑田 仁

 私達が見る昆虫のなかでも非常に小さいハダカアリを対象とした観察と実験のレポートである。長年にわたるアリの観察経験が生かされ、ハダカアリの行動を丁寧かつ的確に観察しており、また、実験的に問いかけてその答えを導いている。そればかりでなく、広い視野から、似た大きさのトビイロシワアリとの関係や、植物であるコニシキソウとの関係までが調べられている点でもナチュラリストとしての成長が感じられる。飼育容器などもよく工夫されているが、コニシキソウを植えた鉢にハダカアリの巣を誘引する着想は本人ならではのものであろう。
 社会性昆虫でありながら、所帯が小さく、動きもそれほど早くないハダカアリは、生物ネットワークを実験的に調べるうえでとてもよい材料であるかもしれない。来年の研究計画もすでに定められているようだが、今後の発展が楽しみである。

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