第59回入賞作品 小学校の部
文部科学大臣賞

うみそらハリセンボンのかんさつ
~寄生虫フグノエについて~

文部科学大臣賞

沖縄県那覇市立天久小学校 2年・4年
岩瀬 海・岩瀬 花海
  • 沖縄県那覇市立天久小学校 2年・4年
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    文部科学大臣賞

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はじめに

 沖縄県那覇市にある「波の上うみそら公園」の海には、さまざまな生き物がいる。
 ハリセンボンもたくさんいて、水深20cmほどの浅瀬にまでやってくる。ある日、ハリセンボンを捕まえて家に持ち帰った。一晩観察したら海に返すつもりだったが、夜のうちに死んでしまい、もったいないのでスープにして食べることにした。皮をはぐと口の中に白い虫が1匹入っていた。
 白い虫はまだ生きていて、動いている。以前、誕生祝いのタイにタイノエという寄生虫がついていたことがあったが、それに似ていた。コップに水を入れて白い虫を放すと、別に泳げるわけではなさそうだ。
 調べてみると、この虫は魚につく寄生虫でウオノエ科の生き物、フグノエだとわかった。おもにフグやハリセンボンの仲間に寄生するため、フグノエと呼ばれている。エタノールにつけて観察すると、体長は2cm弱で体に7つの節がある。足の数は左右7対だった。目の色は薄く、あまり見えていないのかもしれない。なぜこの虫が、泳いでいるハリセンボンに寄生できるのか不思議だった。その生態を調べたいと思った。

魚につく寄生虫とは


フグノエの目の色は薄い(左上) 足の数7対(右上) 胸の節の数7節(下)

 人間や動物に寄生する虫がいるように、決まった魚の体にすみつき、養分を吸い取って生きている生き物がいる。寄生虫と聞くと危険だと思うかもしれないが、魚につく寄生虫で人にも寄生する種類はそう多くない。最も有名なアニサキスでも、人の体の中で成虫になることはない。生きたまま食べると激しい腹痛を引き起こす有害な種であっても、魚を加熱調理、または冷凍処理して死滅させれば心配はない(注:例えばアニサキスアレルギーのようにアレルギーを持つ人は、死滅させても食べてはいけない)。
 「寄生虫は珍しいものではなく、魚屋にいれば目にしない日はない当たり前の生き物」(『魚屋が出会う身近な魚の寄生虫』より)。

研究の目的と方法

 今回の観察で調べたいのは、次のようなことだ。

1.
フグノエは、いつどうやってハリセンボンの口の中に寄生するのか
2.
フグノエの雄と雌はどのように出会い、どのように子どもが生まれるのか
3.
フグノエは何を食べて生きるのか
4.
宿主も無事に生きていけるのか、宿主を変えることはあるのか

 観察方法はまず、うみそら公園でハリセンボンを網で捕まえて口の中をのぞき、フグノエが寄生したハリセンボンが見つかったら、家で飼育することにした。フグノエと寄生された宿主ハリセンボン、それぞれの様子を観察するためだ。
 また、フグノエと似ている虫も観察することにした。似た生き物の生態から、フグノエの一生を想像してみることができればよいと思った。


うみそら公園での調査風景

ハリセンボンの観察

フグノエが寄生したハリセンボンが見つからない

 2018年5月から8月までに計29日間、うみそら公園でハリセンボンを探し、80匹のハリセンボンを捕まえた。
 ただ、はじめはなかなかフグノエに寄生されたハリセンボンが見つからなかった。寄生されていないハリセンボンのほとんどはその場で逃したが、5月6日に1匹だけを家に持ち帰り、水槽で飼育を始めた。

ハリセンボン1号の生態を観察

 持ち帰ったハリセンボン1号は、飼育を始めて2日目に水槽で飼っていたケブカガニを食べてしまった。5月20日には、一緒の水槽に入れたソライロスズメダイを70匹も食べてしまった。ほかの生き物がかわいそうなので、1号を逃すことにした。1号はほかに、買ってきたアサリも食べた。

ハリセンボン2号の生態を観察

 5月27日、フグノエに寄生されたハリセンボンはまだ見つからない。1号より小さいハリセンボンを持ち帰り、2号として飼育することにした。2号は生きたカニやコクセンスズメダイの赤ちゃん、シーフードミックスのエビを食べた。

ハリセンボンの飼育からわかったこと

 1号と2号、その後フグノエに寄生されたハリセンボンを飼育してわかったのは、小さなケブカガニが好きなこと。スズメダイやアサリ、シーフードミックスのエビも食べる。歯が丈夫で何でもバリバリ食べるのかと思ったが、硬いものはあまり好きではなさそうだ。大きなカニは反撃されると食べられないし、アサリも割ってやらないと殻から出ているところしか食べなかった。寝る時は底に沈んで、ヒレを縮めて体を少し膨ませ、何かに挟まるのが好き。
 うみそら公園でハリセンボンを探した5月から8月まで29日のうち、最も獲れた日で12匹、次いで9匹、7匹という獲れ高だった。波浪注意報が出ている日はあまり獲れず、全く獲れない日も珍しくなかった。7~12匹獲れた日はどの日も、小潮だった。


1号が大きなケブカガニに口を挟まれる

フグノエの観察

ついにフグノエを発見!

 ハリセンボンの口の中をのぞいただけでは、フグノエは見つからないかもしれないと思い始めた。5月31日、いつものようにハリセンボンを捕まえて口の中をのぞいた時、大きなフグノエが見えた。持ち帰って水槽に入れ、そのフグノエに「ボス」という名前をつけた。
 宿主のハリセンボン3号はとてもやせていた。ほかのハリセンボンより食べ物にこだわりが強いようで、魚も冷凍エビも食べない。前から水槽にいたハリセンボン2号が3号をいじめるので、2号を海に逃した。

ボスがベビーを生む

6月3日17時30分、

 ようやく捕まえた小さなカニを水槽に入れると、3号はすぐに5匹も食べた。ただ、20時30分ごろになると、3号は機嫌が悪そうに泳ぎ回ったり、歯ぎしりみたいにグイッグイッと鳴いたり、体を膨らませたりしていた。水槽に変な小さなものがいると思ったら、たくさんのフグノエの赤ちゃんだった。大きなフグノエだと思っていたらボスにはベビーがいたようだ。ベビーは小さなエビのように見えた。何匹かをスポイトで吸い取って、エタノールにつけた。

ベビーの生後1日から7日目までの記録

 フグノエベビーは1000匹ほど生まれていた。フグノエボスとの体の違いは、ベビーの目は黒く、シッポの先にふさふさしたものがあるところ。シッポを使って水槽の中を泳ぎ回るし、携帯電話の光を向けると集まってくる。

6月4日ベビーたちの生後1日目、

 水槽には3号のほかソライロスズメダイ15匹、3号のエサにするための透明なエビや小ガニが入っていた。エビや小ガニがたくさん集まって、ベビーを食べようとしていた。
 ベビーたちも寄生に向けての行動を始めていた。ソライロスズメダイ2匹は、背ビレやアゴにくっつかれている。3号は底に沈んでじっとしている。3号の体にも、たくさんのベビーがくっついている。尾ビレについたものが多いが、頭の上の針にもついていた。

6月5日ベビー生後2日目、

 朝、ソライロスズメダイが3匹死んでいるのを見つけた。3匹のうち1匹はヒレ、もう1匹は口にベビーが入り込んでシッポだけ出た状態。水槽で泳ぐベビーの数は、とても少なくなっていた。しかも泳ぐベビーは、弱っているように見える。3号も弱った様子で底で動かず、時々エラを動かすのを止める。

6月6日ベビー生後3日目、

 ソライロスズメダイ4匹が死んでいた。2匹はのど、1匹は目、1匹は背びれとのどに寄生されていた。泳ぎ回っているべビーは、前日よりさらに元気がなくなってきた。力つきて水槽の底に沈んでいるベビーがたくさんいた。

6月7日ベビー生後4日目、

 ソライロスズメダイは残り5匹になった。その5匹も、すべてベビーに寄生されている。水槽を泳いでいるベビーは数十匹になった。3号に寄生するベビーはますます増えた。3号の目についているベビーがいたから、スポイトで水を吹きかけ取ろうとしたが取れなかった。

6月9日ベビー生後6日目、

 ピョコピョコとジャンプするように泳いでいた最後のベビー1匹を捕まえてエタノールにつけた。3号に寄生するベビーも、針とピンセットで何匹かはがしてエタノールにつけた。寄生しているベビーのほうが成長しているかと思ったが、大きさはあまり変わらなかった。

6月10日ベビー生後7日目、

 泳ぐベビーがいなくなったので、水槽のフィルターを交換した。フィルターについて動いているベビーを、エタノールにつけた。

ベビーの生後9日から29日目までの記録

6月12日ベビー生後9日目、

 学校から帰ったら3号が暴れていた。前日から少し機嫌が悪かった。水槽を見ると砂の上にフグノエボスの死骸のようなものがあった。ところが3号の口の奥に、ボスがいるのが見えた。脱皮したのだ。昆虫は卵を産むと死んでしまうが、ボスはベビーを産んでも死なないようだ。


脱皮前日のフグノエ 3号の口の中の前方にいる

6月16日ベビー生後13日目、

 3号に寄生しているベビーを取って何匹かエタノールにつけた。3号はすごく怒っていた。頭、背中、体の横、顔の4カ所から4匹取った。頭についたものが、4匹の中で一番大きかった。次いで顔から取ったもの。4匹とも、シッポが変化しているように見えた。

6月30日ベビー生後27日目、

 3号が弱って皮膚がボロボロになってきた。1週間に1度はカニを食べていたのに、それも食べない。毎日寝てばかりいる。

7月2日ベビー生後29日目、

 ハリセンボン3号が死んでしまった。皮膚が荒れたり、色が濃くなったり、お尻から何か出ていたりして、最近調子が悪そうだった。口からボスを取り出す。3号に寄生していた大きいフグノエは、ボス1匹だけだった。体の外側に寄生していたベビーは、おなかと腹ビレについた2匹だけ、口の中についたベビーは7匹だった。
 7月7日にフグノエが寄生したハリセンボン4号を見つけて連れて帰ったが、7月11日に死んでしまった。水槽の水が悪かったのかもしれない、当分ハリセンボンは飼わないことにしようと思う。4号が死んで少したつと、口の中からフグノエが自力で出てきた。4号に寄生していたフグノエも、1匹だけだった。

フグノエ以外の虫の観察

フグノエと似た生き物の観察

 フグノエがオオグソクムシに似ていると思ったので、オオグソクムシを美ら海水族館で観察した。フグノエと同じだったのは胸の節の数(7節)や足の数(7対)だ。異なっていたのは、大きな目や長い触角。シッポの形も少し違った。
 フグノエはダンゴムシやフナムシにも似てると思ったので、つかまえて写真を撮り、体を比べてみた。


フグノエとフグノエに似た虫の特徴

フグノエ以外の寄生虫の観察

 今回、たくさんのハリセンボンを観察するうちに、ハリセンボンにはフグノエだけでなく、さまざまな寄生虫がつくことがわかった。
 例えば5月4日、捕まえたハリセンボンの頭にゴミのような赤いものがついていた。生きていて、伸びたり縮んだりしている。ウオビルといって、これも魚につく寄生虫だとわかった。ウオビルは口とお尻に吸盤があって、伸びたり縮んだりする。今回の観察で、寄生しているウオビルを何回か見つけた。
 また、死んだハリセンボン3号に寄生したフグノエベビーを調べている時、口の中に何か刺さっていたので取り出してみた。赤い釣り針のような形で、ストローのような細長い体の中で何かが動いていた。体の外側はとても硬い。インターネットで調べて、ウオノハブラシという寄生虫だとわかった。
 ただ、ウオビルもウオノハブラシも海での調査中には見つけられなかった。もしかしたら、たくさん寄生していたのに見つけられなかったのかもしれない。


ハリセンボンに寄生していた寄生虫の特徴

研究からの考察

 フグノエベビーは一度に1000匹ほど生まれる。エタノールで保存したものを実体顕微鏡で観察すると、生まれた時は頭から胸までが平均1.38mm。シッポの横の部分が、寄生した後に閉じて小さくなる。目は最初は大きく、だんだん小さく色が薄くなる。触角は短くなる。足の数が生後4週間までに6対から7対に変化する。寄生に成功したフグノエのほうが早く大きくなる。生後30日には頭から胸までが平均1.74mmほどになった。


生後1日目のフグノエ

 フグノエに似た虫の特徴として、たくさん動き回る虫のほうが目が大きく触角が長い。水中で動き回る虫のほうが、シッポの横についたものが大きい。
 寄生後のフグノエの特徴は、次のとおりだ。

1.
フグノエの目は色がうすい→見る気なし
2.
触角は短い→あまり周りを調べる気なし
3.
シッポは小さい→泳ぐ気なし
4.
足はカブトムシのよう(カブトムシが木につかまるために鋭いツメを持つと考えると、フグノエの足は宿主をがっちりつかむためのもの)→移動する気なし

 フグノエは一度魚に寄生したらそこから動かず、別の宿主につくことは一生ないのだろうと思った。
 では、フグノエはどうやって雄と雌が出会い、結婚するのか。父にたずねると、昆虫や寄生虫は子孫を残すために自分だけで子どもを作れることがわかった。
 生まれた後に性別が変わる生き物がたくさんいることも教えてくれた。フグノエも生まれた時には性別が決まっていない。魚の口の中に寄生した個体は雌になり、後からやってくる個体が雄になるそうだ。
 観察ではハリセンボン3号の口の中に、ベビーも何匹か寄生した。ボスは自分のコピーである子どもと結婚できることになるが、そうならないためにフグノエは工夫しているのではないか。そういえば生後0日目のベビーたちは、どの魚にもすぐに寄生しようとはしなかった。ベビーたちはプランクトンのように、光のある方向へ一生懸命泳いでいた。またベビーが生まれた日のハリセンボンはとても機嫌が悪く、夜中ずっと暴れまわった。今回は小さな水槽だから、同じハリセンボンにベビーが寄生したが、海で生まれた子どもたちは遠くへ離れていくのではないか。
 それから、観察した3号は何匹ものベビーたちにくっつかれていた。もし寄生しているボスが、同じ寄生虫だけにわかる「私はここよ」というサインを出しているとしたら面白い。もっと観察して、本当のことがわかればよいと思う。

指導について

岩瀬 絵里

 今回の研究は、たまたま捕まえて連れて帰ったものの、設備不十分で死なせてしまったハリセンボンの口から出てきた寄生虫(フグノエ)がきっかけでした。「フグノエがついたハリセンボンを飼育観察したい!」。そこから2年生の長男は、毎日のように海へ行き、ハリセンボンを捕獲して口の中をチェックするという作業を繰り返しました。とても楽しそうでしたが、かなり根気のいる作業だったと思います。その後、幸運にも見つけることができ、連れて帰って飼育したところ、3日後にフグノエが赤ちゃんを放出しました。それをきっかけに、今度は4年生の次女がフグノエ同士の出会いと結婚について興味を持ちました。謎の多い寄生虫の結婚について、観察した中でわかってきたことを踏まえ、恋に憧れる次女が描いた想像図には本当に驚かされました。たくさんの偶然が重なり、長男の努力と次女の想像力が実る形となり、思いもよらぬ素晴らしい賞をいただいたことに感謝いたします。

審査評

[審査員] 髙橋 直

 日常的にハリセンボンが採集できるという恵まれた生活が可能にした研究である。観察がすんだら海に帰すつもりで持ち帰ったハリセンボンが死んでしまい、その口の中に入っていた虫を見つけ、フグノエというその寄生虫について知りたいと思ったことがきっかけになっている。生きたフグノエの観察には寄生されたハリセンボンを見つけなければならない。ハリセンボンが容易に捕獲できるということを生かして、大きなフグノエ個体がいるハリセンボンの採集に成功している。幸運だったのは、このフグノエ個体が子持ちだったことで、多数の子フグノエが生まれて、成長の様子、寄生する様子が詳しく観察できたことである。このようなタイプの研究では、予想していなかったチャンスが訪れた時に、いかに集中的にデータをとれるかが大変重要で、それがないと論文としてまとめることがむずかしくなるが、この研究ではそういったポイントがおさえられている。これからも、チャンスを逃さず、いろいろとチャレンジしていってほしいものである。

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