第52回入賞作品 中学校の部
1等賞

アリが運ぶ紫色の絨毯の謎

1等賞

福島県福島市立福島第一中学校 自然科学部1年・2年・3年
坂本 弘平・長島 海志・長沢 和弥・佐藤 諒裕・渡邉 陸
  • 福島県福島市立福島第一中学校 自然科学部1年・2年・3年
    坂本 弘平・長島 海志・長沢 和弥・佐藤 諒裕・渡邉 陸
  • 第52回入賞作品
    中学校の部
    1等賞

    1等賞

研究の動機

 昨年度は「雑草を使って土壌を診断する」をテーマに研究した。群生している様子が紫色の絨毯のようなヒメオドリコソウは、腐植率の高い場所で早春に繁殖することが分かった。しかし、ヒメオドリコソウが日本に帰化したのは100年ほど前だ。なぜ短期間に生息域を広げることができたのか。また、ヒメオドリコソウが繁殖する前は、ホトケノザがたくさん見られたという。なぜホトケノザよりもヒメオドリコソウの生息域が拡大したのか、研究を進めた。

4仮説による研究

 植物が生息域を拡大するには、種子散布の方法が鍵となる。その方法には種子の落下による重力散布、風が運ぶ風散布などがあるが、注目したのは「アリ散布」だ。文献などによると、日本で知られるアリ散布植物(23科30属)には、ヒメオドリコソウとホトケノザが属する「シソ科オドリコソウ属」も含まれる。ヒメオドリコソウには、よりよくアリを誘引できる条件があるのではないかと考え、4つの仮説を立てた。

アリ散布植物:種子や果実に、アリを誘引する物質(エライオソーム)を付けた植物。アリはこの種子や果実を地中に運び、エライオソームだけを食べる。種子はそのまま捨てられるが、植物にとっては、温度や湿度、外敵からの防御などの面から優位に子孫を残すことができると考えられる。

エライオソーム:白色、乳白色のゼリー状で、脂肪酸やアミノ酸、糖などを含む。種皮のもとになる珠皮に由来し、種子ができるときに胎座した「へそ」近くにできる。種枕(しゅちん)とも呼ばれる。

【仮説1】

ヒメオドリコソウはアリ散布植物であり、競合を避けるために、同じ生息域には他のアリ散布植物が少ないのではないか。

《方法》

学校周辺の河川敷で植物の種子を採取し、実体顕微鏡で、エライオソーム種子の識別を行った。

《結果》

ヒメオドリコソウと同時期に生息する植物は10科36種あり、同時期に開花、結実する植物は12種類あった。そのうち種子にエライオソームを確認できたのはヒメオドリコソウとホトケノザ、オオイヌノフグリの3種類だった。

【仮説2】

ヒメオドリコソウは、茎・葉の広がりが優位な(空間利用が高い)状況にあり、茎1本あたりの種子数もホトケノザより多いのではないか。

《方法》

50cm×50cm(5cmずつ区分け)の方形枠を用いて、地表面をおおっている被度(%)や草高を調べた。種子数はヒメオドリコソウとホトケノザそれぞれ100本の茎について調べた。


《結果》

・ホトケノザに比べて、ヒメオドリコソウの群落は高い被度を示す傾向が強く、繁茂するほど単一種で群落を形成することが多い。
・単位面積あたりに生える茎の本数は、ヒメオドリコソウの方が多い。
・茎1本あたりの種子数はともに大きな違いはなく、他の植物と比べても、この2種類が特に多くの種子を形成するものでもない。
・ヒメオドリコソウは2~6月中旬が開花時期で、ホトケノザよりも長期間の種子散布が可能だ。

【仮説3】

ヒメオドリコソウは、他の植物よりも発芽率が高いことで、生息域を拡大しているのではないか。

《方法》

滅菌シャーレにろ紙を敷き、種子を50個ずつ散布した。温度の条件は、福島市の7~8月、10月、12月の気温環境を想定して、室温(平均25.9℃)冷蔵庫(終日4℃)朝7時~夕方7時まで冷蔵庫(4℃)・夜間は室温(最高27.0℃~最低15.0℃)に設定した。

《結果》

・夏季の室温状態ではどの植物も発芽率は低い。
・12月の気温環境で発芽する種子数が多くなった。特にオオイヌノフグリの発芽率が大きく高まった。
・冷蔵庫の温度(4℃)でハコベ、ミドリハコベの発芽率が高まった。早春に咲く植物は、温度によって発芽時期が決まっているのではないか。
・ヒメオドリコソウとホトケノザの種子は、高い栄養分のエライオソームを有するためか、カビの繁殖が多く、発芽は確認できなかった。

【仮説4】

ヒメオドリコソウの種子は、形や質量などから、アリに運ばれやすいのではないか。

《方法》

種子100個の長径・短径を測定し、扁平率を計算。質量を電子天秤で計量した。エライオソームの面積は、1個ずつデジカメ撮影した画像をOHP用シートにプリントし、1㎜方眼紙に重ねて測定し、表面積に対する割合を計算した。
アリの飼育と実験:植物生息域のアリの巣を土壌と一緒に採取し、ポリバケツで飼育した。ペットボトルのキャップに入れた種子をアリが運搬する実験。エライオソームと糖類の運搬の比較実験。種子からエライオソームを除去した場合の運搬、エライオソームを付けたろ紙の運搬などの実験を行った。

《結果》

・種子の大きさ(長さ・扁平率)、質量について、ヒメオドリコソウは、同時期に種子を形成する他の植物と比べ、大きな違いは見られなかった。
・アリ散布の種子は1個0.4~2.0mgとされ、この質量の範囲にある10種類の植物(ヒメオドリコソウ・ホトケノザ・オオイヌノフグリ・タチイヌノフグリ・タネツケバナ・ナズナ・ハコベ・ミドリハコベ・スズメノカタビラ・ノボロギク)の種子が、アリによって運ばれた。
・エライオソームの種子(表面積)に占める割合は、ヒメオドリコソウが最も大きく(20.0%~22.0%)、ホトケノザ、オオイヌノフグリの2倍に近い。
・アリは2亜科5属6種が確認できた。トビイロシワアリ・オオシワアリ・クロヤマアリが特に種子散布に関係する。オオシワアリはこれまで、アリ散布にかかわるものとしては知られていなかった。今回の調査によって、新たに加わるのではないか。
・トビイロシワアリは、エライオソームのついていない種子もえさとして運ぶ。オオシワアリは、ショ糖に対する反応が高く、エライオソームのついた種子を中心的に運ぶ傾向がある。
・エライオソームが付着した種子と除去した種子では、付着した種子の方が運ばれる数は多い。エライオソームをろ紙に付着させると、付着したろ紙のみを運ぶことから、種子散布にはエライオソームが大きく影響している。

研究のまとめ

 ヒメオドリコソウが生息域を拡大できた理由として、次の3点が考えられる。
(1)群落を単一種で占める傾向が強い。
(2)種子を長期間(2~6月)形成し、単位面積あたりの密集性も高いので、多くの種子を散布できる。
(3)エライオソームの種子に占める割合が大きく、アリに運ばれる種子の数も多い。

指導について

指導について福島市立福島第一中学校 菅野 俊幸

 昨年度、「雑草を使って土壌を分析できるか」をテーマに、早春の植物と土壌との関係を調査しました。特に、腐植率が高い場所ほど、ヒメオドリコソウの被度が高くなり、密集して生息することに気づきました。
 昨年度の結果をもとに、なぜ肥沃な土壌をヒメオドリコソウが占領できるのかをテーマにしました。草高が40cmほどで、日本に侵入し100年ほどの植物が、なぜ全国に生息地を広げられたのかの謎に挑戦したのが本研究でした。
 福島県は、3月11日の震災と原発事故と続き、さらに、ホットスポットとの関係から野外調査を断念しなければならない時期もありました。不安定な状況の中、自分たちができることは何かを問い続けながら、調査研究をやり遂げることができました。ヒメオドリコソウをテーマに、自然に隠された神秘と美しさ、生物どうしのつながりの深さに感動しながら、そのすばらしさを感じることができたのは、地道な努力の成果だと思います。

審査評

審査評[審査員] 髙橋 直

 帰化植物であるヒメオドリコソウの生息地が100年ほどの間に全国に広がった理由を明らかにしようとした研究である。蟻による種子散布という観点に着目して仮説を立て検証している。ヒメオドリコソウは同じ地域に生息している他の植物と比べて、茎1本あたりの種子の数や発芽率では他の植物を上回っていないが、被度が大きく密集して生息することや、種子形成期間が長いことでより多くの種子を周辺に散布しているという結果を得ている。
 同じシソ科の蟻散布植物であるのに、ヒメオドリコソウとは対照的に生息地が縮小しているホトケノザは被度や密集度、種子形成期間で劣るという結果は、もともとはホトケノザの生息地であった場所がヒメオドリコソウの生息地に変わってきたという、事前調査における推論を支持している。
 ダーウィン以来の進化論ではより近縁の種ほど競争が厳しく共存が難しいとされている。ヒメオドリコソウとホトケノザの盛衰についてもこの原理が適用できるのかもしれず興味深い。

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