第66回入賞作品 中学校の部
秋山仁特別賞

アリの嗅覚能力と孤立アリが抱えるストレスについて アリの研究パートIII

秋山仁特別賞

福井県福井大学教育学部附属義務教育学校 9年
八木 詩月
  • 福井県福井大学教育学部附属義務教育学校 9年
    八木 詩月
  • 第66回入賞作品
    中学校の部
    秋山仁特別賞

    秋山仁特別賞

研究1〜2のきっかけ

 アリはコロニーと呼ばれる家族集団で生活する社会性昆虫で、なかでも高度に役割分担が進んだ真社会性を持つ。メスが大多数を占め、女王アリが産卵を担当、ワーカー(働きアリ)など不妊の集団がコロニーの維持を担っている。嗅覚が発達したアリにとって、重要なコミュニケーションの手段がフェロモンだ。アリの体には外分泌腺があり、警報フェロモンや道しるべフェロモンを出して、においでコミュニケーションを取っている。
 フランスの研究チームによると、アリはがん細胞と健康な細胞のにおいをかぎ分けられる嗅覚と記憶力を持つという。優れた嗅覚を持つアリに、論文を参考にしながらアプローチし、その潜在能力を検証しようと思った。

研究1〜2の実際

 前回の研究中、コロニー内のアリの死骸を外へと運ぶワーカーを観察した。死骸は死の直後ではなく、死後2〜3日たつと運ばれることが多かった。今回の研究では、仲間の死骸をコロニー外へ搬出する目的を探りたい。
 アリは視力が弱く、視覚で仲間の健康状態が判断できるとは思えない。死骸から出るにおいを探知して、運び出している可能性がある。運ばなければならない理由は何か、死骸がコロニーの生きたアリの健康に悪影響を与えるのか。命の危険がなければ死骸を食用にすることも可能で、巣外に運び出す必要はない。


死骸を運ぶ様子

研究1

 福井市松本地区に生息するクロアリの生体20匹と、クロアリの死骸10匹を同じコロニーから採集した。どちらもワーカーのアリで、死骸は死んでから6時間未満のものを選んだ。石膏でそれぞれ縦横10cm×10cmのコロニーAとコロニーBを作り、自宅室内(気温25〜27℃、湿度60〜65%で管理)に置く。コロニーAは縦横7cm×6cmのエサ場と長さ30cmのチューブでつなぎ、エサ場へ出入りできるようにした。コロニーBには出入り口はない。コロニーAとBにそれぞれ生体10匹と死骸5匹を入れ、生きたワーカーの行動や生存状況観察する。この観察を5回繰り返した。
 コロニーAのワーカーは死骸をエサ場へと運び出し、死骸を搬出できないコロニーBのワーカーは生存できないと予想したが、そのとおりだった。下が時間経過とワーカーの生存数を示すグラフだ。生存数は、5回の平均値で表している。


研究1の経過時間(h)とアリの生存数

 研究1の結果から、死骸を搬出する行動はコロニー内で生きるアリの命を守るためだと推察できる。入れた死骸が死後48時間を経過したころから、コロニーBでの死亡率が上がった。生きたワーカーの健康に影響が出るのは、死後48時間以上がたった死骸だと考えられる。

研究2

 前回の研究中、「死骸から出るのは蟻酸ではないか」とアドバイスをいただいた。文献を調べると、アリの死骸はオレイン酸を放出することがわかった。そこで、生きたワーカーとオレイン酸を含むオリーブ油を染み込ませた麩をコロニーAに入れ、研究1と同じ観察を行った。
 オリーブ油を含んだ5mm角の麩5片を、コロニーAに入れる。その他の条件はすべて研究1と同じだ。5回観察を繰り返し、平均値を求めた。研究1と研究2のコロニーAの平均値を比較したグラフは、下のとおり。


研究1と研究2のワーカーの生存状況

 死骸と違って麩は最初からオリーブ油のオレイン酸のにおいがするため、即刻搬出すると予想したが、すべての麩が搬出された。麩を食べたアリもいたが食後2〜3時間以内に死亡し、麩と死んだアリは同じ場所へ運び出された。研究2の生存状況が悪いのは、麩が死骸より早くからオレイン酸を放出したからだと考えられる。

研究3〜5のきっかけ

 アリの研究を始めたころ、コロニー内に死骸が増えていくなかで1匹残ったアリが、間もなく死んでしまうことに気がついた。アリを単体で飼育した時も、長く生きられない様子が観察できた。社会性昆虫であるアリが環境の変化にどう対応するのか、確かめたいと思った

研究3〜5の実際

研究3〜4

 研究3では、福井市松本地区に生息するクロアリのワーカー31匹を同じコロニーから採集した。石膏で縦横10cm×10cmのコロニーを2セット作り、自宅室内(気温25〜27℃、湿度60〜65%で管理)に置く。コロニーはどちらも縦横8cm×6cmのエサ場と長さ30cmのチューブでつなぎ、エサ場へ出入りできるようにした。同じ条件のコロニーの1つにワーカー1匹を入れ、もう1つにはワーカー30匹を入れて観察した。2つのコロニーには、同じタイミングでエサを与えるようにする。
 1匹だけのワーカーは同条件で8回観察したが、最も生存時間が長かった個体でも48時間だった。8回平均(最大値と最小値を除く)の生存時間は9.75時間しかない。これに対し、30匹を入れたコロニーでは半数の15匹が死亡するまでに35日以上かかった。
 研究4は研究3と同じコロニーに10匹のワーカーを入れ、飼育途中の4日目に1匹を残して他を取り出し、孤立する状態を作った。同条件で5回観察したが、孤立後のアリの寿命は平均10.6時間だった。グループで生活していたアリでも孤立すると寿命が縮まり、周囲に死骸がないことから寿命が縮まる原因はオレイン酸ではない。
 孤立アリの生存時間については他にも、抗酸化作用のある脱酸素剤などをコロニーに入れて観察したり、種類が違うクロヤマアリで試したりした。なぜ抗酸化作用のあるものを入れたかというと、アリの寿命には「酸」が大きく関わると考えられ、孤立アリは酸化ストレスを感じていると仮定したからだ。結果、生存時間が多少は延びたケースもあったが、どれも長くは生きられない。すべての孤立アリはエサに興味を示さず、石や木の影に隠れていることが多かった。

研究5

 研究5では、集団で暮らしているアリがどんな生活を送るのか、1日の時間経過とともに観察した。
 早朝から午前中は活動量が増え、正午前後は活動しない傾向がある。夕方以降は活動量が落ち、夜中は2〜3匹しか活動しない。1回の休憩時間は10分程度、休憩中に動き出す個体がいても、また戻ってきて仲間たちと休む様子が見られた。


仲間とかたまって休憩中

 早い段階で、コロニー内にゴミ捨て場が設置されるのも観察できた。食べかすや死骸、老廃物がたまり始めると、生活圏内から離れた場所へ数時間かけてゴミ捨て場を移していた。元のゴミ捨て場は、きれいに片付けられている。ゴミ捨て場担当のワーカーは常に3〜4匹いて、コロニー内を清潔に保つ重要な役割を担っていた。
 エサを見つけると仲間を呼び、巣に持ち帰って口移しで仲間に配っていた。エサに反応しない孤立アリとは大変な違いだ。孤立アリは強い酸化ストレスを受け、仲間を探すうちに力尽きてしまう印象だった。社会的な生き物にとって種別関係なく、孤立は心理的、身体的健康にデメリットをもたらす可能性がある。アリのストレスを単純にヒトに当てはめるのは安易だが、アリの細胞内に起こる変化を追究し、孤立に屈しないヒントを得たい。
 小さなアリを見続けた日々は私にとって、大きな宝物である。

指導について

八木 美沙子

 「アリの嗅覚には、ヒトのがん細胞と健康な細胞を嗅ぎ分けられる能力がある」という論文に出合い、興味を持ったことが、この研究のきっかけです。親子そろって何の知識もなく、手探り状態でのスタートでした。最初はアリ1匹をつかまえるのにも一苦労でしたが、今ではアリの細かな動きや表情の変化が見えるようになりました。初年度は論文の研究内容を参考に行い、2年目以降はコロニーを自作し、前年の反省を踏まえながら観察する中で、アリの嗅覚や記憶力についてたくさんの新しい発見に恵まれ、また、アリの生命維持方法や複雑な社会構造を垣間見ることができました。これからも、環境に応じてアリの細胞内に起こる変化を追究し、彼女の最終目標である「ヒトに応用できる日」がくることを願っています。4年間、1日に何時間もアリを見つめ続けた娘と共に、私もアリに夢中になれた宝物のような日々を過ごすことができ、大変幸せに思います。

審査評

[審査員] 秋山 仁

 本研究の動機は、「アリにはがん細胞と健康な細胞をかぎ分ける嗅覚と記憶力がある」という論文があることを知ったことである。この興味深いテーマに触発され、アリのもつ潜在能力を検証し、それがどのようにアリの寿命の変化や社会性に影響するかを、予想や仮説を立て、実験しながら、結論を導いている。それによると、アリは死骸から微生物やオレイン酸を放出するので、コロニー内の衛生保全のため死骸を外に運び出していることを突き止めた。また、アリは集団から脱却して孤立すると、酸化ストレスを感じ、食欲も減衰し、早や死にする傾向があることも観察している。この種の研究は予想や仮説を立証することは至難ではあるが、私たち人間もアリから学ぶことがありそうなので、今後も是非研究を続けてほしい。また、線虫ががん細胞を探し出す特別な嗅覚を持つことに注目し、がんの早期発見法が研究されているので、医学への応用も視野に入れて研究していただきたい。

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