研究の動機
自分の将来の目標は、生物学者になることだ。アゲハ蝶類の飼育の研究は、今回が2年目になる。前回の研究で自宅の庭に「蝶ドーム」を設置し、ジャコウアゲハやカラスアゲハ、ミヤマカラスアゲハを飼育し観察した。真夏の暑さで蝶類が死んでしまうため、途中からエアコンのきいた多目的室での観察が中心となったが、アゲハ蝶類の飼育観察は楽しさがたくさんあった。今回の研究ではおもにジャコウアゲハの飼育観察を行い、成果を基礎にして飼育の経験値を上げていきたい。将来は地域全体でジャコウアゲハを育てていく環境づくりを、生物学者として実践したいと思っている。

ジャコウアゲハの成虫
研究の目的
前回の研究では、「アゲハ蝶類の蛹化と成長直線について」報告できた。前回、アゲハ蝶類の幼虫には体長20mmあたりに生死の壁があり、無事に羽化した個体は幼虫の時、2段階の成長をしていることがわかった。1段階目では緩やかに、2段階目で急速に成長して蛹化していると考えられた。前回の蛹化成功率はジャコウアゲハ34匹中17匹で50%だった。今回の研究では飼育観察する幼虫の数を増やし、発見した2段階成長を踏まえ、蛹化成功率を上げるための条件を見つけていきたい。
研究の方法
自分で育てて越冬中のジャコウアゲハの蛹と、購入したジャコウアゲハの蛹を蝶ドーム内で羽化させ、その後の交尾、産卵で生まれた幼虫の飼育観察を行う。幼虫の飼育方法は、伊丹市昆虫館で指導いただいたカップでの単独飼育が基本となる。幼虫を健やかに育てる方法はさまざまあるが、最もわかりやすいのが、食草のウマノスズクサの与え方を工夫することだと思う。食べた量=幼虫の糞量を確認し、幼虫の成長カーブは「体長mm」「重量g」「糞量g」のデータを記録して解析する。「命」を預かる飼育なので、無駄に幼虫を殺す対照実験はしない。
蝶ドーム内で交尾し、産卵後の親の蝶はマークペイント後に放蝶する。地域の蝶層を確認しつつ、自然界で生活するジャコウアゲハも観察したいと思う。
103グループの飼育観察
2025年1月、茨城県の2施設から8頭ずつのジャコウアゲハの蛹を購入した。自分で育てた越冬中のジャコウアゲハの蛹は3頭だけであったし、人工飼育集団に新しい血が必要だからだ。春が来て蝶ドームで、越冬中のジャコウアゲハ1頭(オス)と茨城産の2頭(メス)が羽化した。2日後の4月14日には交尾に成功し、ドーム内のウマノスズクサの葉裏に卵も確認した。4月26日までにウマノスズクサの鉢植え2鉢に103個の卵が産みつけられたことから、このグループを103グループとした。鉢植え2鉢を多目的室へ移し、次々と孵化する幼虫を経過観察する。蝶ドームで羽化した親世代の3頭は、感謝の気持ちを込めて放蝶した。

庭の蝶ドーム
前回の実験では「比較的サイズの大きい幼虫」と、それより免疫力のない「体長8mm以下の小さな幼虫」に分け、比較観察を行った。今回、103グループは「比較的サイズの大きい幼虫」の担当として、ある程度のサイズになってから飼育カップへ移し、体長や重量などを測定する。確認した103個の卵のうち、孵化に成功した幼虫は74頭だった。そのうち15頭は1頭のみ単独で、残りは5頭ずつ飼育カップに入れ、5月6日から体長、重量、糞量の測定を開始した。

その結果、前回の2段階成長直線は103グループでも再現した。5月6日から始まった比較的緩やかな成長直線が11日を境に急角度で上がっている。左下が、幼虫の大きさや糞量平均値の変化をまとめた表だ。5頭1パックで飼育した59頭の平均を見ると、5月13日の糞量は自分たちの体重を上回っていた。11日ごろからウマノスズクサの爆食いを始め、13日までに急激に重くなったことがわかる。単独飼育の例でいうと、13日の3日後には15頭中7頭が前蛹または蛹化し、5日後の18日には12頭が蛹化している。つまり、11日からの急成長は、蛹化1週間前からの事象だと推測できる。
183 グループの飼育観察
2025年4月に、茨城県の越冬蛹を新たに10頭購入した。この茨城由来の蛹からも羽化、産卵が確認でき、卵の数から183グループと名前をつけた。183グループは「8mm以下の小さな幼虫」の担当として、幼虫の成長を待つことなく順次5頭ずつ飼育カップに入れていった。5月18日に孵化した130頭の幼虫で103グループと同じ測定記録を始めることにし、ここからは130頭を1頭ずつ単独飼育パックへ移し替えた。
183グループでは5月28日に蛹化した8頭のみを対象に、5月18日、20日、25日、28日の平均データをグラフにした。すると、幼虫の蛹化までの急成長勾配がよりはっきりした。蛹化の3日前、25日が総糞量の最大ピーク時で、自分の体重の1.8倍の糞をしている。25日の糞量は20日の25倍、アップ率は2569%だ。食欲旺盛度に限度がなく、蛹化の1週間前にはウマノスズクサを限りなく用意する必要がある。幼虫は前蛹になる直前、おしりから不要物を排泄する(ガットパージ)ため、25日のピークをすぎると成長線は下降する。成長直線が急角度に上がる起点となっている20日から、爆食いが続いたのは1週間程度だろうか。実際の幼虫を見ていてもいきなり摂食行動をやめて、あたりを動き回って納得がいく頃合いに不要物を排泄、前蛹になる。
今回、103グループ74頭のうち蛹化したのは71頭、95.9%の蛹化率だった。71頭の蛹のうち2頭が死亡、残った69頭はすべて羽化している。そのうち35頭の蛹は焼津東小学校の小学3年生に教材として寄贈した。教室で次々と羽化し、生徒たちが大歓声で見送ったという。183グループ130頭の幼虫は122頭が羽化し、羽化率は93.8%だ。こちらは92頭の蛹を大井川東小学校の3年生に寄贈した。

183グループ8頭の蛹化までの成長線
開翅長とFG指数
人工飼育したジャコウアゲハの標準サイズは、どのくらいの数値だろうか。蝶が翅を広げた長さ(開翅長)は、幼虫の摂食量によって変わると経験からわかっている。
今回は67頭分(オス35頭、メス32頭)の①開翅長、②体長、総重量、糞量(いずれも蛹化前の最大値)、③蛹化日、羽化日のデータを得ることができた。各個体の②の糞量を②の総重量で割り、四捨五入して求めた数値をFG指数とし、幼虫の摂食度を示す指数とした。67頭のFG指数と羽化後の開翅長の関連性を見ると、標準的な開翅長は100mmだった。FG指数が1.0を超えると開翅長105mm以上の立派な成虫となり、1.0未満なら開翅長90〜95mmの小型サイズになることもわかった。
[審査員] 邑田 仁
この論文は、ジャコウアゲハを人工的な飼育環境で安定的に飼育する条件について、体験的に実験と観察を重ね、その成果をまとめたものと見られます。比較的大規模な飼育環境のもとで実験が行われていることに感心します。この論文で注目している蛹化という現象について、素早く成長するショウジョウバエでは、幼虫が蛹化できる域値(限界の大きさ)があり、域値を超えた後の成長が成虫の大きさに関係することが知られていますが、アゲハチョウのような大きな幼虫についてのはっきりした知見はないかもしれません。データはできているので、FG指数を問題にする前に、一定の成長段階の幼虫の大きさと成虫の大きさをまず比較してみたらどうでしょうか。なお、写真から推定すると、ウマノスズクサとして挿し木の実験に使っている植物はオオバウマノスズクサではないかと思われます。


静岡県焼津市立大村中学校 教諭 大塚 昌裕
本研究は、昨年度のアゲハ蝶類の飼育で見いだした新たな課題に基づき、ジャコウアゲハの成長過程を対象としたものです。昨年から越冬の観察や食草ウマノスズクサの栽培など、関連する事柄に根気強く取り組んできました。 本年度は、越冬個体の産卵から孵化した個体の詳細な観察に加え、ケースを用いた個体管理など多角的なアプローチを試みました。研究に必要な情報も自ら積極的に収集し、手法に取り入れています。特に「蛹化成長曲線の検証」においては、200頭を超える個体を飼育し、日々丁寧にデータ測定を行いました。庭への蝶ドーム設置や室内への飼育スペース確保など、家族の理解と協力による充実した環境が研究をより深化させ、今回の成果につながったと言えます。何より、こうした粘り強い取り組みは、聡さんの蝶に対する深い愛情があってこそ成し得たものでしょう。今後も、蝶の研究を通じて新たな課題を見いだし、探究し続けることを期待しています。