第55回入賞作品 中学校の部
継続研究奨励賞

セミ研究 No.9 続・フェロモン追跡説の検証
―羽化地点決定のための習性について―

継続研究奨励賞

茨城県小美玉市立小川南中学校3年
内山龍人
  • 茨城県小美玉市立小川南中学校3年
    内山龍人
  • 第55回入賞作品
    中学校の部
    継続研究奨励賞

    継続研究奨励賞

研究の動機

 小さい頃から生き物が好きだ。小学生の夏休みには毎年セミを対象に自由研究をした。中学生になってからは、自分なりの幾つかの仮説の中からとくに興味深く感じた、羽化時の〝フェロモン追跡説〟をメインテーマに、検証に取り組んできた。今年も自説の証明を目指したい。

これまでの研究

 木枝などの特定の場所に、セミの抜け殻が多数集まった塊(かたまり)が見られる。地面から出てきたセミの終齢幼虫が羽化場所を決めるために、先に羽化した先輩ゼミの後を追って行く習性があり、それを誘導し、後輩が追跡するフェロモンをもつのではないかと考えた。
 屋外観察や室内実験では、先輩ゼミのつめ跡などをたどる足跡追跡の可能性も、目で見て抜け殻地点に向かう目視追跡の可能性も否定される。途中のルートにかかわらずセミたちは最終地点に集まるのだから、それは〝集合〟フェロモンではないのか。
 ところが2匹同時スタートで羽化実験をすると、2匹は集まるどころか、逆に離れようとしてルートが乱れた。セミと同じカメムシ目のカメムシもフェロモンをもつ。カメムシのフェロモンは、弱く漂う程度だと個体同士が互いに寄り合う〝集合〟フェロモンとして働くが、強く噴射されると互いに分散させて逃がすような〝警戒〟フェロモンとして作用することが知られている。セミの幼虫がもつのも〝集合警戒フェロモン〟かもしれない。さらにフェロモンだけでなく、ほのかな光へと向かって進む「走光性」が備わっている可能性も示された。
 今回の研究では集合警戒フェロモンの存在・作用の確認走光性の確認をテーマに追究する。

屋外での自然下羽化観察

 自宅に隣接する横町公園のサクラ「すずなりの木」周辺で毎日観察する。驚くほど多数のセミが一気に〝すずなり〟状態で羽化することから、僕が名付けた。

《結果と考察》

今年も、先輩ゼミの通った道を後輩がたどる様子は見つけられなかった。それどころか、今年は個体数が極端に少なく、羽化前の幼虫を見つけること自体が困難だった。抜け殻が集まっている様子はいくつか見られた。

室内カーテンでの羽化観察実験

 地上に出て来た終齢幼虫を自宅のカーテンで羽化させ、たどったルートや様子を観察する。

《方法》

夕方、穴から出て来た幼虫を捕獲し、手で温めたり振動を与えたりしないで、急いで自宅に運ぶ。必ず同じカーテンの同じ場所から上らせる。すべての動きをビデオ撮影する。朝になり、羽化したセミが完全に飛べる状態になってから逃がす。抜け殻はそのまま残しておく。

《結果と考察》

7月31日から8月6日まで原則毎日1匹ずつ(8月5日は2匹同時で)、計8匹を観察した。幼虫たちの軌跡には、ルートの位置や角度に共通性が見られた。先輩ゼミの脱け殻に寄っていく様子、それに触れてから先へ進む様子も見られた。2匹同時スタートでは、明らかに互いに離れる様子も観察できた。〝集合警戒フェロモン〟が存在し作用していると考えられる。また、実験の初日に間違って室内の右側の照明をつけたまま、幼虫を上らせてしまった。あわてて消すと、幼虫は左側のライトの方向に頭を向けた。やはり光に敏感な感受性を示し、走光性を備えていることが推察される。

室内Y字実験

 Y字状に分かれたサクラの両枝先に、昨年の古い抜け殻、前日採集した新しい抜け殻を付けて、幼虫がどちらの枝で羽化するかを調べる。

《方法》

古い抜け殻はそのままの状態、新しい抜け殻は、人工臭を消すために10日間ほど天日干ししたガーゼで包み、外から姿が見えないようにした。実験条件を抜け殻が新・旧それぞれ1個、3個、5個の場合、枝の左右、細枝・太枝の場合と変えた。枝先は互いに約80cm離れている。実験場所は玄関内で、窓や鏡など、何らかの光の影響を及ぼしかねないものは全て段ボール箱で覆った。

《結果》

計8匹の幼虫で観察した。抜け殻の数が新旧各1個の場合を除き、各3個、各5個の場合に全て、幼虫は新しい抜け殻の枝で羽化した。枝の太さには関係がなかった。

《考察》

Y字分岐点にいる幼虫に対して、新しい抜け殻1個では発するフェロモンが十分ではない。新しい抜け殻が3個以上あれば、50~60cmの距離で誘引作用が認められる。セミの羽化に至るまでの活動に、フェロモンが作用しているという自説を裏付ける結果だ。

屋外段ボール箱実験

 羽化直前の幼虫がもつ走光性を確認する。

《方法》

内側に黒いパイル布を張った段ボール箱を用意し、四隅の角の1カ所に穴を開けて、そこから光が入るようにした。羽化するために地面を歩いている幼虫にかぶせ、しばらく待ってから中の幼虫の様子を観察した。

《結果》

かぶせてから数分後に見たら、光の穴から5cmも離れていない位置で、すでに羽化体勢に入っていた。

《考察》

素早い羽化体勢だった。幼虫はあまり歩き回ることなく、光を求めてすんなりとその場所に進んだようだ。しかし実験はこの1回だけだった。今年は個体数が非常に少なかったからだ。幼虫の走光性を確定するには、さらに実験が必要だ。方法についても、段ボール箱の幼虫の様子が見えないからといって、こまめに中をのぞいては幼虫の行動や羽化にも影響する。何らかの工夫が必要だ。

まとめ

 羽化へと向かうセミの終齢幼虫は、集合警戒フェロモンと走光性を備えているという自説を裏付けることができた。
集合警戒フェロモンの役割:接触事故で羽化が失敗しないように、「警戒作用」によって仲間同士の距離を調整する。抜け殻に残った程度に少なくなると「集合作用」に転じ、羽化成功地点に仲間を多く引き寄せることで、羽化の成功率を高めている。
走光性について:終齢幼虫にはすぐれた光の感受性があり、羽化に適した時間や空間を光で判断する能力をもつ。それにより、日中の強すぎる光を避けることで、危険の少ない夜間を選べる。地中の闇から出て、ほのかな光を目指すことで、羽化に適した高さと広さを選べる(なお、昼夜の判断には温度も感じていると考えられる)。

感想

 セミの研究は9年目になるが、今年はなぜか極端にセミが少なく、実験のために個体を確保するのが難しかった。実験で使った幼虫の動きを予測できるようにもなり、「ここで向きを変えるはず」「そろそろ足を止めるだろう」とか、思い通りに動く幼虫を見て面白かった。自分の仮説に大いに自信を深める結果を得たが、今後さらに確認の数を増やす必要がある。新しい検証法も考案していきたい。

指導について

指導について内山 えりか

 もともと、生き物好きの子どもが純粋に趣味から始めた自由研究です。作品展やコンクール等の存在も長く知りませんでした。小学生時代は、ヒントすら大人からは提示せず、ほぼすべてを本人が考えて本人が行い、本人の手書きだけでまとめていました。この方面に明るくないわが家では、少しでも大人が手を貸したり口を出したりするのはズルになる!と考えていたのです(笑)。広く見ていただけるようになった近年でも、彼の研究は、基本的には相変わらず、自ら考案し実行する、子どもらしい素朴なものです。特別な器具も難解な知識も用いていません。自身のフィールドでの豊富な経験が何よりの土台です。だから、常識にとらわれず、子どもらしく素直に現象を捉えて発想するのでしょう。それが、一緒に見ている大人としては、とても新鮮で面白いです。この受賞が、あまり指導に恵まれた環境でなくとも、自ら苦心し楽しんで努力している皆さんへ、エールとなればうれしいです。

審査評

審査評[審査員] 友国 雅章

 小学生の頃から続けてきたセミの生態の観察で、羽化時に多くの幼虫が集まる現象にとくに注目し、中学生になってからは、この現象が「フェロモンの効果である」という仮説を立てた。さらにセミの幼虫には弱い光に向かう「走光性がそなわっている」という仮説を加え、この二つの仮説で幼虫の脱皮殻が集合する現象を説明するために観察と実験を重ねてきた。実に10年近くも一つのテーマを根気よく追い続けてきた熱意をまず高く評価したい。
 これまでに知られている事実にとらわれることなく、独自の仮説を立て、それを追求しようとする態度も立派である。受賞者の言う「集合警戒フェロモン」とは、その濃度が高いと警報フェロモン、低い場合は集合フェロモンとして働くフェロモンのことで、その証明にはさらに科学的な分析が必要だが、セミと同じ半翅目のカメムシもそのようなフェロモンを持っていることが分かっているので、プロの研究者でも興味をそそられるだろう。内山君の研究が今後どのように発展していくか大いに楽しみである。

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