第53回入賞作品 小学校の部
オリンパス特別賞

かつお節はなぜ踊るのか

オリンパス特別賞

茨城県結城市立結城小学校 6年
茨城県結城市立結城小学校 6年
山中 莉藍
  • 茨城県結城市立結城小学校 6年
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    オリンパス特別賞

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研究の動機

 ある日の夕食で、熱々のお好み焼にかつお節をふりかけると、かつお節が激しく踊っているように動き出した。なぜなのか、不思議に思い、事典やインターネットで調べてみたが、はっきりした解答が出ていない。そこで、自分で調べてみようと思った。

観察1:かつお節を使った、どんな料理で踊る現象が見られるのか調べる

《方法》

冷奴 ほうれん草のおひたし オクラのおひたし お好み焼 たこ焼き ご飯(温かい) ご飯(冷たい)の7種類の料理を用意し、かつお節をかけて、踊るかどうか観察する。

《結果》

冷蔵庫から出した豆腐にかけても、何の動きもなかった。
ゆでた後で水にさらしたほうれん草にかけても、何の動きもなかった。
ゆでた後で水にさらしたオクラにかけても、何の動きもなかった。
熱々のお好み焼にかけると激しく動いた。
熱々のたこ焼きにかけると激しく動いた。
温かいご飯にかけると激しく動いた。
冷たいご飯にかけると、まったく踊らなかった。

《考察》

かつお節が踊るかどうかは、食材に影響されない。温度が高い料理にかけた時だけ踊る。温度が関わっているようだ。

【実験1】乾燥した状態で温度を変化させ、かつお節がどのように踊るか調べる

《方法》

水を入れていない電気なべを加熱し、上に置いた金網にかつお節1枚(厚さ0.04~0.05㎜)を乗せて変化を見る。温度40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃での様子を観察する。かつお節は5秒間乗せた後の10秒間の動きを、起き上がって戻るまでを1回、あるいは、ねじれてひっくり返った状態を1回として数える。実験は5回行い、ビデオでも確認する。

《結果と考察》

低い温度、高い温度でも、かつお節は踊らなかった。温度とは別の条件が必要だ。

【実験2】湿度が高い状態で温度を変化させ、かつお節がどのように踊るか調べる

《方法》

水を入れた電気なべで、実験1と同じ方法でかつお節の変化を調べた。

《結果》

温度40℃:踊らない。少し反ったり、多少の伸びは見られた。50℃:1回だが踊る現象が見られた。ゆっくりした動き。60℃:1、2回の踊る現象。細かい動き。70℃:はっきりした踊る現象。2~5回。80℃:激しく踊った。3~9回。動きも大きい。90℃:激しく踊る。5~8回。95℃:激しく踊る。5~8回。

《考察》

湿った状態では、温度が80℃以上になると、かつお節が踊る回数は非常に増える。80℃~95℃での踊る回数、動きは基本的に同じだ。

【実験3】かつお節の厚さを変えて、かつお節がどのように踊るか調べる

《方法》

削り器の刃を調節して削った5種類の厚さのかつお節を、実験2の水を入れた電気なべ、温度95℃での変化を調べた。

《結果》

厚さ0.02㎜以上~0.04㎜未満:4~8回踊った。動きも非常に激しい。
0.04㎜以上~0.06㎜未満:2~7回踊った。動きも激しい。
0.06㎜以上~0.08㎜未満:4~5回踊った。全体的に動きはゆっくり。
0.08㎜以上~0.1㎜未満:踊る回数が1~3回と、非常に少なくなった。動きもゆっくり。
0.1㎜以上:踊りは1~2回。動きも非常にゆっくり。

《考察》

かつお節が薄い場合はすばやく動き出す。厚い場合は、動き出すまでに時間がかかり、動きもゆっくりだ。

【実験4】かつお節以外に、どのような物に踊る現象がみられるのか調べる

《方法》

ティッシュペーパー・普通紙・あぶら取り紙・ビニール・厚い紙(いずれも大きさ5㎝×1㎝)、木材のスプールパイン・ホウノキ・バルサおよび食材のするめ・かつお節・さば節(いずれも厚さ0.04㎜)について、実験3と同じ湿度のある状態で行い、95℃での様子を見る。

《結果》

ティッシュペーパー:なべの湯気をあてても動かない。湿ってふやけてしまった。
普通紙:湯気があたった反対側にゆっくり反り返った。踊るような動きは見られなかった。
あぶら取り紙:湯気をあててもほとんど動きが見られない。すぐにふやけてしまう。
ビニール:湯気をあててもほとんど動かず、金網に付いてしまった。
厚い紙:湯気をあてた反対側にゆっくり反り返った。動きはゆるやか。
スプールパイン:湯気をあてた反対側に反り返り、ゆっくり踊った。回数は1~3回。
ホウノキ:スプールパインと同じように、湯気をあてた反対側に反り返り、ゆっくり踊った。回数は1~3回。
バルサ:スプールパイン、ホウノキと同じように、湯気をあてた反対側に反り返り、ゆっくり踊った。回数は1~3回。
するめ:湯気をあてるとすぐに踊るが、1、2回程度で、すぐにふやけて動かなくなった。
さば節:激しく踊った。回数も5~8回と非常に多い。
かつお節:激しく踊る。回数は5~9回と非常に多い。

《考察》

紙類、ビニールでは踊る現象が見られなかった。木材では回数は少ないが、踊る現象が確認できた。さば節も、かつお節と同様に、激しく踊るのが見られた。するめは、ほとんど踊りが見られなかった。

観察2:かつお節がなぜ踊るのか調べる

《方法》

かつお節に冷水(20℃)、熱水(70℃)を与えた時の、細胞の大きさの変化を顕微鏡で観察する。これを木材(ホウノキ)の削り片に与えた時の細胞の様子と比較する。かつお節、木の削り片は、0.001㎜スケール入りのスライドガラスに透明テープでとめ(観察試料の一部は液滴が染み込みやすいように外に出しておく)、倍率100倍で観察する。
(1)適当な細胞5個を選び、細胞の大きさ(長さ)の変化を調べる。
(2)時間ごとの変化をみる。1秒ごとに連続写真を撮る。
(3)木の削り片の観察。

《結果》

(1)かつお節+冷水の場合:細胞7.5㎜→12㎜、細胞5.5㎜→6.5㎜、細胞12㎜→14㎜、細胞6.5㎜→7.5㎜、細胞9㎜→10㎜。細胞は1.1倍~1.2倍ほど大きくなった。
かつお節+熱水の場合:細胞9㎜→12㎜、細胞11.5㎜→17㎜、細胞14㎜→18㎜、細胞9㎜→12㎜、細胞6㎜→9㎜。細胞は1.3倍~1.5倍ほど大きくなった。
(2)水分が染み込むに従い、細胞がふくらみ、細胞の膜がはっきり見えてくる様子、画像全体の細胞が移動する様子などを観察した。変形は素早く、20秒ほどで完了した。冷水よりも熱水の方が、変形のスピードは速かった。
(3)木材(ホウノキ)の場合:木の組織がふくらんで、すき間がなくなった。全体の大きな変形や変化はなかった。

《考察》

かつお節に水分を与えると細胞は1.1倍~1.2倍(冷水)、1.3倍~1.5倍(熱水)になった。かつお節全体としては非常に大きな変形量になる。これが踊る要因の一つだ。冷水より熱水の方が変形量および変形スピードが大きいため、食材の温度が高い場合の方がより多く踊るのだ。
〈木材との変形の違い〉木材など植物の細胞は頑丈な「細胞壁」で包まれている。このため水分を含ませても変形しづらく、踊る現象も見られにくいのではないか。

まとめと課題

 かつお節に水分を含ませると、細胞や組織に大きな変形が起こることが分かった。温度が高い食品にかつお節をかけた場合、食品からの水蒸気がかつお節に当たって変形するが、その当たり具合は均等ではなくムラができる。そのために、かつお節に変形が起こる部分と起こらない部分ができてしまう。これがかつお節を複雑に動かす、いわゆる「かつお節が踊る」という現象だ。木材などの植物細胞では細胞壁があるため変形が小さく、踊る現象も少ないと考えたが、同じ動物細胞でも「するめ」での踊る現象は少なかった。植物性と動物性の違いだけが踊る現象の発生条件ではないようだ。他の動物性の素材(ビーフジャーキーなど)でも踊る現象が見られるのか、確かめる観察や実験が必要だ。水分のムラによる踊り方の違いについても、顕微鏡での細胞の観察、検証が必要だ。

感想

 とても暑い夏。かつお節が動かないように閉め切った部屋で、クーラーも扇風機も使わず、100℃近い熱湯を扱うなど、汗だらだらの実験だった。かつお節を初めて削り器で削ったが、木づちでの刃の調整がうまくいかず、毎日が大量のかつお節との格闘だった。そんな中、踊る現象の正体に迫っていくのは面白かった。顕微鏡での観察で、水を含んだ細胞が生き返るように大きくなったのは感動ものだった。極限までカツオの水分を抜くためにカビを利用した昔の人の知恵と技、細胞構造という自然の仕組みが合わさり「かつお節が踊る」という現象が発生していたのだ。

指導について

指導について結城市立結城小学校 橋本 朋子

 本校では、夏休み前に科学研究の進め方の学習をした5・6年生が、それぞれにテーマを見つけ自由研究に取り組んでいます。特に、山中さんは身近な事象や動植物に大変興味をもち、意欲的に実験・研究を行いました。顕微鏡の使い方を学習した昨年は、たくさんの花の花粉を観察し、その特徴ごとに分類する研究を行いました。本年度は「かつお節はなぜ踊るか」という疑問から、たくさんの実験を繰り返し、すばらしい研究をまとめました。学校では顕微鏡や電子天秤といった機材の補助等のお手伝いをしただけで、この研究は、まさに、ご家庭の台所で身近な疑問が解明された価値ある研究だと思います。山中さんの熱意とご家族の皆様のご協力の賜物です。また、この成果は、本校の児童にもよい励みとなることと思います。

審査評

審査評[審査員] 髙橋 直

 熱々のお好み焼きにふりかけたかつお節(削り節)がなぜ踊るように動くのかという疑問を解決しようとした研究である。削り節がよく動くには高い温度と共に高い湿度が必要であるということを、実験によって明らかにし、また、種々の紙類や、木材等を削り節と同じ形状にしたものを用いて、削り節が踊る条件下では、木材を薄く削ったものも動くことを観察している。さらに、顕微鏡を用いた観察によって、乾燥によって縮んだ状態にあるかつお節の細胞が、高い温度の水分を吸収してよく膨らむことを見出し、細胞ごとに膨らみの程度に違いのあることが削り節の踊る原因になっているという結論を導いている。そして、木材も細胞でできているのに削り節と同じほどにはよく動かない理由についても、顕微鏡観察をもとにして、植物の細胞と動物の細胞との構造の違いから考察している。結論に至る過程で、顕微鏡が有効に活用されており、論文も筋道がわかりやすくまとめられている秀作である。

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