研究のきっかけ
僕は6年前からカブトムシを育てている。小学1〜4年生の自由研究ではおもに飼育ケース内のカブトムシを観察し、生態を調べてきた。前回の研究では地球温暖化に着目し、初めて野外でのマーキング調査を行った。カブトムシが樹液に集まり、猛暑の中でも元気いっぱいな姿を見て、とてもうれしかった。しかし翌日、同じ個体に出合えることはほとんどなく、別のカブトムシが飛んでくる。周りを見渡しても死骸はないから、一度エサを食べたら別の場所へ移動しているようだ。
ある日の野外調査で、飛んでいるカブトムシのオスを見つけた。何分間もぐるぐると空中を飛び回る姿を見て、こんなふうに飛ぶんだ!と驚いて感動した。昆虫の中でもカブトムシは、飛ぶのが下手だといわれるけれど、本当にそうなのか。そこで今回の研究では、カブトムシの飛翔力の解明を目標にした。解明した上で他の昆虫と、その飛翔力を比較したい。
飛び方の観察
実験1 飛翔標本で翅を観察
カブトムシの飛翔力を知るにはまず、体のつくりを知ろうと思った。カブトムシのオスとメス、翅を開いた状態の飛翔標本を作る。お亡くなりになったカブトムシのオスとメスを50〜60℃の湯に1時間ほどつけ、発泡スチロールの上に置く。昆虫針で胸を刺し、前翅を開いた状態に広げ、針で固定する。後翅をゆっくり開き、こちらも針で固定する。
飛翔標本を観察すると、前翅は中胸の根元についていて、後翅と腹を守る硬いカバーのようにカーブしている。後翅は後胸の根元についていて、腹に沿ってカーブし、広げて羽ばたくことで空気をたくさん集める構造をしている。後翅はとても薄く長さは体長とほぼ同じ、4カ所で折りたためる。前翅がついた中胸、後翅がついた後胸はどちらも中に筋肉があり、筋肉を使って翅を動かしている。
翅の構造はオスとメスで変わらない。体長はオスのほうが長いが、翅の長さはメスのほうが長かった。

オスの体長47.67mm、メス体長45.47mm、後翅にある翅脈は飛翔時に翅を支える
実験2 カブトムシの日常を確認
次に、カブトムシは1日のどんな時によく飛ぶのかを調べたい。飼育ケースは狭くて、カブトムシがのびのび飛ぶことができない。そこで、家族と協力してカブトムシの小屋(床から上の高さ150cm×横53cm×奥行き39cm)を作った。床に昆虫マットをたっぷり敷きつめ、中央に木材を置き、木材には隠れるための造花の葉も取り付けた。天井にトレイルカメラを設置して、24時間小屋の中を撮影できるようにした。
カブトムシのオス6匹、メス6匹を小屋で飼育する。15分おきに1回15秒の動画を撮影してSDカードに保存するようにトレイルカメラを設定、夜間も赤外線で撮影できる。小屋の中の温度もデータロガーが1時間おきに測定し、測定値を自動で保存する。
エサをマットの上だけに置く日を3日間、木の上にも置く日を3日間撮影し、カブトムシ6匹の動き方、飛翔の有無などを動画を見ながら記録する。エサは朝、新しいものを与え、なくなったら補充した。
観察の結果、エサがマットの上にしかない時はオスはマットの上にいて、オス同士でエサを取り合いすぐにケンカをした。エサが木の上にもある時も、オスは木の上でエサをめぐってケンカをしていた。メスはほとんど土の中にいる。エサ場が空いていたらタイミングを見計らって、土から出て食べていた。飛翔するのはオスもメスもエサ場が埋まっていたり、エサがなくなってきた時など、時間帯は午後9時〜午前4時ごろが多かった。エサが木の上にもある時、飛翔する個体が多かったことから、自然界ではエサを食べたら次のエサ場を求めて飛んでいくと思われる。
実験3 飛翔を始める動作を確認
小屋とは別に飼育ケースで育てているカブトムシが飛翔する時の動画を撮って、動作を確かめた。オスとメスの両方を観察したが、飛び方は共通していた。
まず足踏みをして頭を持ち上げ、地面からの角度45度で一度ぴたっと動きを止める。前翅を広げ、両側の中脚を浮かせてから後翅を広げる。羽ばたきを始める。地面から脚が離れる。が、そのまま45度上へと飛び上がるのではなく、水平方向へ飛び始めていた。
せっかく45度の角度を決めたのに、カブトムシはなぜ水平に飛び始めるのだろうと疑問に思った。

脚を踏み締めて頭を起こしぴたっと止まる(左)、前翅を広げてから両側の中脚だけを浮かせて後ろ翅を広げる(中)、上ではなく前に飛び出す(右)
実験4 昆虫が飛ぶ時に必要な力
昆虫が空を飛ぶ時、どんな力を働かせるのか、調べてみた。昆虫も鳥も飛行機も飛んでいる時、上方向に揚力、下方向に重力、前方向に推力、後方向に抗力が働いているという。カブトムシは昆虫のなかでは体重が重いので、飛翔する時は重力に逆らう大きな揚力と、抗力に逆らう大きな推力を働かせる必要がある。飛行を始めたばかりの後翅は、まだ体を引き上げるほどの大きな揚力を得られていない。だから水平方向に飛びながら、少しずつ後翅を高速に羽ばたかせて、揚力を高めている。
実験5 大きな揚力を得るための翅の動き
カブトムシの翅が大きな揚力を作る時、どのように動かしているのか、観察したいと思った。ただ、高速度カメラでも記録できないほど速かったため、インターネット上の飛翔動画を参考に、翅の動かし方のスケッチを取り、揚力がどう生まれているのか調べてみた。
するとカブトムシだけでなく昆虫は、翅の動きで「前縁渦」という小さな竜巻のような渦を発生させて、揚力を得ることがわかった。カブトムシの後翅は左右対称に、羽ばたきの軌道を8の字型に動かしている。羽ばたきは1秒間に約30往復と超高速、翅脈に支えられた膜は翅の動きに合わせて空気の流れをとらえ、しなやかに動く。後翅は前進する時に前縁渦を発生させ、この渦が揚力を効率よく生み出す。前翅は飛翔中は開いたままで、ほとんど動かない。それでも、下向きにカーブした前翅を広げておくことも揚力を得るのに役立っていて、空中での安定した飛行につながっている。
飛翔力を比べてみよう
カブトムシと他の昆虫の飛翔力を比べるため、フライトミル(昆虫の飛翔能力を測定する回転装置)を自作した。スマートフォンの固定スタンドに、竹ひごを垂直に取り付け(竹とんぼのような形)、接合部はボールベアリングでくるくる回転するようにした。竹ひごの片端にホットボンドで昆虫を取り付け、反対側の端には昆虫と同じ重さの粘土を取り付ける。竹ひごの長さは25cmなので、1回転で25×円周率3.14=78.5cm飛んだことになる。


ショウリョウバッタは1回分の飛翔記録、飛翔と休憩(1秒)を繰り返す
カブトムシはオス5匹、メス7匹を取り付けて飛翔実験をし、他の昆虫も試すことにした。昆虫が羽ばたき始めてから羽ばたき終わるまでの回転数と時間を記録し、飛翔距離と飛翔速度を求める。記録した各昆虫の最高記録をまとめたのが上の表だ。
飛翔距離の1位はカブトムシのメス、2位はノコギリクワガタのメス、3位はシオカラトンボだった。カブトムシの前翅の長さと飛翔距離は関係がないようだ。カブトムシのオスの飛翔距離が300mもないのが気になったので、改めて角をつまんで20分間でどのくらい羽ばたけるかを調べた。すると、羽ばたいては止めを繰り返せば、約1400mの距離を飛翔できることがわかった。
[審査員] 友国 雅章
田中君はカブトムシに興味を持ち、6年前からその生態について研究を続けてきました。今回の研究は、カブトムシの飛翔力にテーマを絞り、さまざまな実験と観察によってそれを明らかにしたものです。中でも、高さが150cmもある手作りの飼育小屋にカブトムシを放してその行動を詳しく観察し、よく飛ぶ時間帯を明らかにしたのは大きい成果です。カブトムシが飛び立つ時の行動を動画で撮影し、体を45度に起こしてから羽ばたいてほぼ水平に飛び立つことが分かりました。すぐに45度に飛び立たないのは、十分な揚力が得られないからだということを文献で調べて理解しました。自作したフライトミルを用いて、カブトムシだけでなくノコギリクワガタ、シオカラトンボ、アブラゼミ、ショウリョウバッタなどの飛翔力を比較したのも面白い研究です。その結果、カブトムシは飛ぶのが下手ではなく、高い飛翔能力を持っていることが分かりました。このコンクールにはカブトムシをテーマにした作品の応募が多くありますが、その中でも田中君の研究は優れていると思います。これからも研究を続けてください。


田中 茜
5歳の頃からカブトムシの飼育を続け、命のつながり、尊さを体感しながら現在に至ります。今年は飛翔能力に着目し、5年目となる研究を開始しました。翅を広げた標本から、オスは体長が長い一方で、前翅および後翅の長さはメスの方が長いということを発見しました。そこからオスとメスで飛翔能力に違いはあるかという疑問が生まれました。フライトミルを用いた実験では、オスとメスの間に飛翔距離の大きな差が認められました。しかし本人には「オスももっと飛べるはずだ」という強い信念があり追加実験を行いました。昨年までの研究を通し、自分の目と手で確かめた記録と経験こそが、探求を深める原動力となっていました。カブトムシに合わせて夜遅くに観察をしてもすぐ飛ぶわけではなく、試行錯誤の日々が続きましたが、本人は弱音を吐くことなく取り組み続けました。最後までやり遂げる力と諦めない心を大切にし、今後の活動にも活かしてほしいと思います。