研究の目的
僕は貝が好きで、新潟県上越市にある柿崎漁港の海岸へ3歳のころから通っている。貝の標本作りに取り組んだり、自由研究にも挑戦したりして、これまで多くの貝を見てきた。2024年秋に、海の異変を感じる出来事があった。珍しいはずのササノツユ(カメガイ科)が大量漂着し、大きいサイズのネジガイ(イトカケガイ科)を拾い、貝がらだけでも珍しいヒオウギ(イタヤガイ科)が中身のある状態で漂着しているのを見つけた。こんなことは今までになく、とてもびっくりした。
どうしてこんなレアな貝が拾えるのかと図鑑を調べると、見つけたのはどれも暖かい場所にすむ貝だった。調べるうちに日本を含め世界中で海水温(海面水温)が高い状態が続いていることを知り、海水温上昇が貝に影響しているのではないかと考えた。そこで今回は、「海水温上昇と貝拾いの関係」について、研究してみる。
研究の方法
気象庁のウェブサイトで、日本近海の海面水温の状態を確かめることができる。2024年の日本近海全海域の海面水温平均値は、それ以前100年の間に+1.33℃の割合で上昇していた。この上昇率は世界全体の同条件の値(+0.62℃)よりも大きい。日本の海域別に見ると、柿崎漁港に近い日本海中部が100年の間に+2.01℃の割合で上昇し、特に上昇率が大きいことがわかった。しかも日本海中部は冬季(1〜3月)に限ると、100年の間に+2.64℃の割合で上昇していた。
この海水温上昇と貝拾いの関係を確かめるため、柿崎漁港の海岸で8年間続けた貝拾いの記録を利用する。
日本の貝類は生息域ごとに、暖流系貝類、広温系貝類、寒流系貝類に3種類に分けられる。暖流系貝類のおもな生息域は黒潮や対馬海流が流れる温暖な海域、一般的に太平洋では千葉県の房総半島、日本海では秋田県の男鹿半島より南の海とされる。広温系貝類は幅広い海水温に適応可能な系統で、寒流系貝類はおもに寒冷な海域に生息する系統だ。
研究ではまず、2023年9月〜 2024年8月(以下、「2023年」という)に行った貝拾いで集めた漂着貝を図鑑で調べ、各月にどの生息系統の貝が拾えたかを集計する。2024年9月〜2025年8月(以下、「2024という」)にも毎月貝拾いを行って同じ集計をし、海水温上昇との関係を分析したい。拾う漂着貝には貝がらだけではなく、中身があるまま死んで打ち上げられた貝(死貝)も含まれる。

柿崎漁港(上越市柿崎区直海浜)と、貝がらだけでも拾うのが珍しいヒオウギ
研究①〜②
研究①
2023年も2024年も貝拾いは毎月2回行うのが基本だが、天候次第でばらつきがあった(2023年の10月と1月、3月は3回、2月は4回、8月は1回、2024年の10月と6月は3回、1月は4回、2月と8月は1回)。
拾った貝の種類の数をまとめたのが下の表だ。まず系統にこだわらず拾った貝の合計を見ると、2023年は9〜10月に増えて、風の強い12月ごろに少し減り、年が明けるとまた増えている。これが続けてきた貝拾いの季節感で、違和感がない。2024年は拾える貝の種類は全体的に増えたが、季節感がなくなった印象だった。
また柿崎漁港の海は暖流系貝類の生息域のため、どちらの年も寒流系貝類はほとんど見つからなかった。

研究②
研究②では、どの生息域の貝が増えているのかを正確に知るために、研究①の月ごとの種類数を割合で表してみた。すると、2023年は拾えた貝が少なかった7、8月を除き、どの月も広温系貝類が50%以上を占めて最も多かった。ところが2024年では9〜11月にかけ、暖流系貝類が50%以上を占めるようになっていた。50%まではいかなかったが5〜7月でも、暖流系貝類の増加傾向が認められた。
研究③〜⑤
研究③
柿崎漁港の海は暖流系貝類の生息域なため、暖流系貝類が拾えてもおかしくはない。けれども、本来ならもっと遠くで生息し、柿崎漁港の海にいるはずのない貝があるかもしれない。2023年と2024年に拾った貝の生息域分布を図鑑で調べ、柿崎漁港の海にいてもおかしくない貝を「範囲内」、本来いるはずのない貝を「範囲外」とした。
暖流系貝類と広温系貝類それぞれ、範囲内と範囲外でどれだけの種類を拾えていたのか、下の表にまとめた。2023年も2024年も暖流系貝類は、範囲内のほうがむしろ種類が少なかった。また、暖流系貝類は範囲内、範囲外ともに、2023年より2024年のほうが種類が多い傾向にあった。
2025年2月の新潟日報に、佐渡で生きたイセエビが見つかった記事が載っていた。本来、温暖な海に生息するイセエビが海水温の上昇により、海を漂いながら移動する浮遊幼生期に対馬海流にのってたどりつき、生き延びた可能性が高いという。研究③の集計を見ると暖流系貝類も、2023年の一年にはすでにたくさんの種類が南の生息域から流れてきていると考えられ、2024年には海水温の上昇により、さらに種類を増やしたのだと思う。広温系貝類も範囲内ではあるものの、対馬海流にのって、遠く南の海にすむ貝が流れ着いているのだと思う。
研究④〜⑤
流れ着いた範囲外の貝は柿崎漁港の海で成長できているのか、2023年と2024年に拾った死貝の種類も集計した。中身があるまま打ち上げられるのは、近くの海で生きていた証拠だからだ。すると2023年も2024年も広温系貝類の範囲外の死貝は、ほぼ拾っていなかった。暖流系貝類の範囲外の死貝は、まず2023年の10、1、2、3、4月に0.5〜4.0種類を拾い、2024年になると毎月必ず0.3〜4.0種類を拾うようになった。拾った暖流系・範囲外の個数を示すと、2024年9月23日にカバザクラの死貝を15個(貝がらは408個収集)、9月29日にもカバザクラの死貝を18個(貝がら240個)、10月22日にはベニハマグリの死貝を7個(貝がら4個)、10月26日にもベニハマグリの死貝を2個(貝がら5個)。2025年7月23日にもマダラチゴトリガイの死貝を11個(貝がら3個)収集している。珍しかった範囲外の暖流系貝類はすでに、柿崎漁港の海に集団で定着していたことがわかった。

研究の結果、海水温上昇と貝拾いには関係があり、すでにさまざまな影響が出ていると結論づけた。

大量に漂着していたカバザクラ
[審査員] 友国 雅章
樋口君は地元の柿崎漁港の海岸で8年間貝拾いを続けています。2024年にはササノツユ、大型のネジガイ、中身が残ったヒオウギなど、これまでに見つからなかった珍しい貝が拾えました。これらの貝は温かい海にすんでいる種類だと分かり、海水温の上昇と見つかった貝の関係について研究しました。
2023年と2024年に拾った貝を暖流系貝類、広温系貝類、寒流系貝類の3つのグループに分けて、それぞれの種類数とその割合などいくつかのテーマについて分析しました。その結果、漂着貝の種類数が増えていること、暖流系貝類の割合は2023年より2024年の方が増えていること、暖流系貝類は海水温上昇の影響を受けていると思われることなどが明らかになりました。
このような成果は樋口君の過去8年間の経験があってこそ得られたものです。「継続は力なり」とよく言われますが、自然を対象にした研究はとくに継続が重要であることをこの研究は示しています。この地域の貝類、とくに暖流系の貝類がこの先どのような変化をするかを調べ続けていってほしいものです。


樋口 優子
元気あふれる息子は、幼い頃より海で遊びながら貝拾いを楽しみ、小学1年から貝の研究と標本作製を続けてきました。今回のテーマは、珍しい貝を見つけることが続いて喜んでいたものの、次第に「何かおかしいよ?」と疑問を抱いたことがきっかけです。貝拾いは楽しいですが、採集した膨大な数の貝の洗浄・同定・保管・軟体部の肉抜きなど、かなりの手間がかかります。今回は自主学習として年間を通して新聞記事や採集記録を自分の視点からまとめ、夏休みの課題として仕上げるため春からパソコンと奮闘して研究を作成していました。たくさんの時間と努力を費やした結果、海水温上昇と貝の関係を導くことができ、息子にとって大きな成長につながったとうれしく思います。私自身は指導という立場ではなく、貝が大好きな息子と同志である姉さくらの熱意に引っ張られて家族として応援したにすぎません。研究に関わって下さった皆様に心より感謝申し上げます。