第61回入賞作品 小学校の部
オリンパス特別賞

くもラボ1〜5

オリンパス特別賞

和歌山県和歌山市立大新小学校 6年
青木 大和
  • 和歌山県和歌山市立大新小学校 6年
    青木 大和
  • 第61回入賞作品
    小学校の部
    オリンパス特別賞

    オリンパス特別賞

研究の動機

 小学1年生の時、和歌山県立自然博物館で行われた「クモに学ぶ自然環境」という行事に参加したことがきっかけで、クモに興味を持った。それから毎年、テーマを決めてクモの観察や研究を続けている。小学1年生の時の「くもラボ 岩手県でのクモ観察、採集」(2015年)が最初で、「くもラボ2 『谷内田』と『畑』でのクモの多様性の比較」(2016年)、「くもラボ3 『根来山げんきの森』のクモの多様性を探る」(2017年)、「くもラボ4 『根来山げんきの森』の1年間を探る」(2018年)と続けた。
 研究を進める中で一冊の本に出会った。『和歌山のクモ』という本で、著者は東條清先生。東條先生は生涯にわたってクモの研究を続けた和歌山県内のクモ研究の第一人者だ。『和歌山のクモ』には、県内のクモに関する民話や伝説、和歌山のクモ類目録などが集録されている。

 クモの研究を進めるにあたり、僕は常にこの本を意識し、参考にしてきた。この本にはクモを確認した場所が記載されているため、東條先生の足跡を追いながら特定の種を探した。また、それまで観察したことがない種類のクモを見つけた時、そのクモが県内で観察採集された記録があるかどうか、東條先生作成の和歌山クモ類目録で確認してきた。東條先生を追って県内各地で進めてきた僕の調査研究を、「くもラボ5」として整理し、まとめることにした。

研究の方法

①クモを観察、採集する

 捕虫網、傘、ふるい、吸虫管、マヨネーズ容器などを使い、クモを観察したり採集したりした。
 落ち葉や土の中に紛れているクモを採集する時は、網目の細かいふるいを使い、クモだけをふるいの下に落とす(シフティング)。草などに隠れているクモを採集する時は、捕虫網を使って草木の葉をかすめる(スウィーピング)。木などに隠れているクモを採集する時は、木の枝葉を棒で叩き、落ちてきたクモを捕虫網や逆さにした傘で受ける(ビーティング)。
 クモを発見したり採集したりした時は、場所や名前などを記録するようにした。採集するクモは幼体(子供のクモ)ではなく、成体(大人のクモ)を選んだ。幼体だと生殖器が未発達で、顕微鏡で観察しても同定(生物の分類上の所属や種類を決定すること)できないからだ。このことは、「くもラボ2」の研究から学んだ。

②クモの写真を撮り、同定する

 自然な色の写真を残すため、アルコールに漬ける前、採集したクモを撮影した。
 クモを同定する時は、デジタルマイクロスコープを使用した。同定するのに必要な眼の配置と生殖器の形を撮影して、図鑑で調べた。デジタルマイクロスコープのLEDは環状に並んでいるため、分光がいくつも写ってしまう。それを改善するためにLEDを弱めにして光源を変え、ペンライトなどの電球の光を当てる。眼の部分は特に光を反射するので光源を変え、電球の光を眼の上からだけではなく、正面から当てるようにする。


光源を変えてクリアな画像にする

③クモの標本を作る

 アルコールに漬けたクモをプラスチック板に貼った脱脂綿の上に乗せて、ピンセットで脚を広げて形を整え、1本1本の脚が脱脂綿にひっかかるようにする。プラスチック板ごとガラス瓶に入れ、プラスチック板の裏には標本ラベルを差し込む。プラスチック板と標本ラベルの間に脱脂綿を詰め、アルコールを加えて瓶の空気を抜き、ふたをすれば標本が完成する。

研究の場所

 東條先生の著書『和歌山のクモ』の「第Ⅳ章2. 和歌山県のクモ類目録」(2000年12月現在)には、クモの確認場所と確認者が記載されている。例えばカネコトタテグモの確認場所と発見者は「1、岩湧山(橋本市)/浜村徹三 2、 三石山(橋本市)/八木沼健夫 3、 奥の院山道(高野町)/ 東條 清」など。特定の種を観察する場合は、その記録を参考にした。
 また、和歌山県内各地のさまざまな環境を選び、クモの多様性を観察した。

クモの多様性を調査した和歌山県内各地

研究の結果

①和歌山県クモ類目録

 クモの研究を始めてから4年間の観察、採集記録をもとに、「和歌山県クモ類目録」を作成した。そのほんの一部を、ここに掲載する。

②『和歌山のクモ』の記録を追う

 『和歌山のクモ』の「第Ⅳ章2. 和歌山県のクモ類目録」にあるクモの確認場所に、引き続きそのクモが生息しているのかを調査した。調査したクモは、8種類だ。
 その結果、生息を確認できるクモと、確認できないクモがいた。例えば、カネコトタテグモは『和歌山のクモ』では16か所で確認されている。そのうち4か所を調べたが、生息は確認できなかった。キシノウエトタテグモは記録がある4か所のうち2か所を調査し、どちらでも多数の巣を確認した。さらに、標高800m以上の高地にすむというアカオニグモは『和歌山のクモ』によると、県内では1933年に採集されたのが最後だ。そのアカオニグモがいるかどうか、護摩壇山を調べた。アカオニグモが見つかることはなかったが、この調査で護摩壇山の深刻なシカ害による生態系の崩れを知った。

研究の考察

 2015年から2020年までに、僕が和歌山県で確認したクモは、24科113種だ。東條先生の『和歌山のクモ』に確認記録があるクモは42科333種にも及ぶ。僕の調査では、コガネグモ科などの比較的見つけやすく、採集しやすいクモはほとんど採集できている。しかし、徘徊性の動きがすばやいクモは、まだ種類が少ない。
 東條先生の目録に載っていて、僕の目録に載っていないのは、カネコトタテグモ科、チリグモ科など22科だ。確認していないクモの生息場所は、屋内、洞窟内、すき間、暗所、○○の下、崖地、渓流、落ち葉中である。今回、研究を整理したことで、観察不足だった場所がわかった。

指導について

青木 史子

 幼少期から住まいの和歌山県や、母実家の岩手県の自然と触れ合い、動植物に興味をもちながら成長してきた中でクモと出会いました。本研究で最も時間を費やし、苦労したのがクモの同定です。デジタルマイクロスコープを使用して眼と生殖器の形状を調べ、図鑑と照合させる作業には高い技術と、何より根気が必要で、はじめは明確に画像をとらえることができませんでした。1匹のクモを同定するのに数時間、数日かかることもありました。しかし、諦めずに時間をかけて工夫を重ね、試行錯誤することで、徐々に技術が向上していきました。そうした努力した点を評価いただき、受賞できたことを本当に嬉しく思います。野山、海、川など様々な環境で観察をし、発見した時の喜びや感動が、自然を守りたいという思いを育んできたようです。クモの研究を継続してきた中で培ったものを今後にも生かし、自然への興味・関心や探究心を持ち続けてほしいと願っています。

審査評

[審査員] 森内 昌也

 本研究は、小学1年生からの継続研究をまとめた集大成にふさわしい研究、「ラボ」になっています。ファイリングされた研究のページをめくっていくごとに、継続研究の成果というべき研究の深化が十分に伝わってきました。先行研究として東條清著『和歌山のクモ』を位置付け、自ら実地調査を行い、検証を通して研究を進めました。共通・多様性の視点をもとに観察し、観察の結果より考察するという解決へのプロセスも明確です。また、採集や分類整理の方法にも工夫が見られ、技能の高さも窺えます。クモの雌雄を分類する際には、デジタルマイクロスコープを活用して生殖器の形状を写真に記録しました。光源の工夫が写真に生かされ、はっきりと識別できる記録になっています。観察の技能の高さに感心しました。研究は集大成にふさわしい内容を示していますが、青木さんは次の問題も見いだしています。クモの多様性をはじめ、生態系や環境との関係についても新たな問いが生まれました。本賞受賞を糧にして、さらなる『くもラボ』の深化を期待しています。

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