第61回入賞作品 中学校の部
1等賞

なぜ久能海岸は吉浜海岸のように
足跡がくっきりと付かないのか?

1等賞

静岡県静岡市立東豊田中学校 2年
佐藤 慶宕
  • 静岡県静岡市立東豊田中学校 2年
    佐藤 慶宕
  • 第61回入賞作品
    中学校の部
    1等賞

    1等賞

研究の動機

 祖母の家がある神奈川県湯河原町の吉浜海岸によく散歩に行き、貝やきれいなガラスを拾った。砂浜には、たくさんのサーファーの足跡が付いていた。弟がサーファーの足跡をたどって遊んでいたが、足跡は海まで深くくっきりと付いていて驚いた。砂浜には、犬やカラスなど動物の足跡もくっきり付いていた。
 しかし、家の近くの静岡県静岡市の久能海岸で足跡を付けようとしたら、ほとんど付かなかった。どちらも砂でできた海岸なのに、なぜ久能海岸は吉浜海岸のように足跡がくっきりと付かないのか、疑問に思ったことが研究を始める動機になった。


左が久能海岸の足跡、右が吉浜海岸の足跡

研究の実際

実験① ふたつの海岸の砂のへこみにくさを比較する

 久能海岸が吉浜海岸より足跡が付きにくいことを、科学的に証明するため、実験①を行った。ふたつの海岸の砂にビー玉を落とし、へこんだ深さを比較する落下実験だ。正確なデータを得るためには、人の手で重りを落とすのではなく、機械で同一条件に落としたほうがよい。僕はプログラミングを習っているので、レゴマインドストームのプログラミングを使って実験装置を作製した。


自作の落下実験装置

 その装置に、ふたつの海岸の自然乾燥させた砂をセットし、ビー玉を落とした。それぞれの海岸の砂に10回ずつビー玉を落とし、へこんだ深さの平均値を求めた。実験では毎回、砂を容器の外に出してから山盛りに入れ、棒ですりきって平らにした。落下したビー玉を写真に撮り、紙に印刷する。印刷された砂のへこみを、デジタルノギスを使って計測した。写真には定規の目盛りが一緒に写るようにしているので、それを基にビー玉が埋まった深さを求めた。
 すると砂がへこんだ深さは、久能海岸が平均12.28mm、吉浜海岸は平均13.32mmだった。久能海岸の砂は、吉浜海岸の砂よりへこみにくいと考えられる。
 実験①からへこみにくさの要因について、3つの仮説を立てた。まず肉眼で観察すると、久能海岸の砂は粗粒が多く、吉浜海岸の砂は細粒が多かった。そこで仮説Aとして、「砂のへこみにくさは砂の粒度組成が影響している」可能性を考えた。次に、実体顕微鏡で観察すると、久能海岸のほうが吉浜海岸より角に丸みのある砂が多いと感じた。そこで仮説Bとして、「砂のへこみにくさは砂の平面的形状が影響している」可能性を考えた。最後に実体顕微鏡で観察すると、久能海岸のほうが吉浜海岸より、平たい砂が多いと感じた。そこで仮説Cとして、「砂のへこみにくさは砂の立体的形状が影響している」可能性を考えた。実験②〜④で、3つの仮説を検証した。

実験② ふたつの海岸の砂の粒度組成を比較する

 自然乾燥させたふたつの海岸の砂を目開きが2mm、1mm、0.5mm、0.25mmのふるいにかけ、ふるいにかかった砂の重量を測定した。次に、下の図の数式で各粒度(2~1mm、1~0.5mm、0.5~0.25mm、0.25mm以下)の存在割合(重量%)を調べた。この作業を5回行った。

 その結果、久能海岸の砂は、2~0.5mmの粒度の砂が約80%で、粗い砂が多かった。吉浜海岸の砂は、0.5~0.25mm以下の粒度の砂が約90%で、細かい砂が多かった。久能海岸と吉浜海岸の砂の粒度組成は大きく異なっていた。
 実験②から、仮説A「砂のへこみにくさは砂の粒度組成が影響している」は正しく、久能海岸の砂がより粗いことから、吉浜海岸のように足跡がくっきりと付かない可能性がある。

実験③ ふたつの海岸の砂の平面的形状を比較する

 平面的形状を比較するために、砂の真円度を調べてみた。まず、久能海岸と吉浜海岸の砂をそれぞれふるいにかけて、2~1mm、1~0.5mm、0.5~0.25mm、0.25mm以下の砂に分ける。その各粒度の砂から、約30個ずつを四分法で選んだ。選んだ砂をそれぞれ、実体顕微鏡で拡大してデジタルカメラで撮影する。撮影画像の砂の面積と外周を、パソコンの画像計測ソフトを使って計測した。最後に表計算ソフトを使って、砂の面積と外周のデータから真円度(面積÷外周²)を求めた。
 すると、久能海岸と吉浜海岸の砂の真円度は、どの粒度(2~1mm、1~0.5mm、0.5~0.25mm、0.25mm以下)でも、ほぼ差がなかった。このことから、仮説B「砂のへこみにくさは砂の平面的形状が影響している」は間違いで、久能海岸が吉浜海岸のように足跡がくっきり付かないのは、砂の角の丸みが原因ではないと考えられる。


砂の向きを変えている様子

実験④ ふたつの海岸の砂の立体的形状を比較する

 立体的形状を比較するために、砂の扁平度を調べてみた。まず、久能海岸と吉浜海岸の2~1mmの砂をそれぞれ50個ずつ、四分法で選んだ。実体顕微鏡で砂を拡大し、砂の最大面積の面(面A)を撮影した後、ピンセットで砂の向きを変え、その側面(面B)の写真を撮る。画像計測ソフトを使って両方の面積を計測し、得られた面Aと面Bの面積から扁平度(面Aの面積÷面Bの面積)を計算した。2~1mmより細粒の砂は、向きを変えるのが難しかったので測定できなかった。計測に使用した砂は、すべて研究ノートに保存した。
 扁平度の値が大きい砂ほど平たいことになるが、実験の結果、久能海岸のほうが吉浜海岸より平らな砂が多かった。久能海岸は吉浜海岸より、扁平度1.5以上の砂が1.75倍多く、扁平度2以上の砂は2倍多かった。このことから、仮説C「砂のへこみにくさは砂の立体的形状が影響している」は正しく、久能海岸はより粗粒で扁平な砂が多いことから、吉浜海岸のように足跡がくっきりと付かない可能性がある。

実験⑤ 仮説AとCを再検証するためのモデル実験

 仮説A「砂のへこみにくさは砂の粒度組成が影響している」は、実験②で否定されなかった。仮説C「砂のへこみにくさは砂の立体的な形状が影響する」は、実験④で否定されなかった。本当に砂の粒度組成と立体的形状がへこみにくさに影響するのか、サイズや形状がほぼ一定の食材を砂に見立て、さらに調べてみた。砂に見立てた食材は、食塩、グラニュー糖、キヌアだ。
 食塩、グラニュー糖、キヌアをそれぞれ、実験④と同じ方法で扁平度を計算した。10個の塩の平均面A面積は0.44㎟、平均面B面積は0.30㎟、平均扁平度は1.49だった。10個のグラニュー糖の平均面A面積は0.86㎟、平均面B面積は0.51㎟、平均扁平度は1.67だった。10個のキヌアの平均面A面積は3.28㎟、平均面B面積は1.87㎟、平均扁平度は1.76だった。次に、塩と塩、塩とグラニュー糖、塩とキヌアを混ぜ(すべて体積比1対1で混ぜた)、実験装置でそれぞれへこむ深さを測った。
 すると、塩と混ぜた食材の粒度が粗くなると、へこみにくくなった。また、塩と混ぜた食材の扁平度が高いと、へこみにくくなった。そして、へこみにくさには、食材の粒度より扁平度が大きく影響することがわかった。

研究の結論

 久能海岸が吉浜海岸のように足跡がくっきりと付かないのは、粗粒で平たい砂が多いため、と考えられる。

指導について

静岡大学技術部教育研究第二部門長 楠 賢司

 本研究は、「なぜ自宅近くの久能海岸は、祖母の自宅付近の吉浜海岸のように足跡がくっきりと付かないのか?」という中学生の素朴な疑問を科学的に探ったものです。佐藤さんは自らのこの疑問を解くために、まず実験装置の開発に着手しました。その際、私は「測定データに対する人為的影響が小さく、また再現性の高い装置を作るように」と指示しました。彼は試行錯誤し、数日後レゴを用いてその条件を満たす装置を見事に作り上げました。また彼は両海岸の砂の肉眼観察を行い、足跡の付きにくさの要因として自ら3つの仮説を立て、各説の妥当性を測定データに基づき客観的に評価しました。その結果、足跡の付きにくさは砂の粒度組成と平たさが影響を及ぼしている可能性を見出しました。このことが砂に見立てた食材のモデル実験からも支持された時は私も驚きました。佐藤さんの研究に対する強い情熱が今回の受賞につながり、指導者としてもこの上ない喜びでいっぱいです。

審査評

[審査員] 友国 雅章

 佐藤君の自宅に近い静岡市の久能海岸と、おばあちゃんの家がある神奈川県湯河原町の吉浜海岸は、どちらも広い砂浜でできた海岸である。しかし、吉浜海岸には深くくっきりとした足跡が付いているのに、久能海岸の砂には浅い足跡しか残らなかった。なぜこのような違いが起こるのかに疑問を持ったことからこの研究が始まった。
 「ぼーっと生きている」と見逃してしまいそうな些細な違いに気付くことが、優れた研究に繋がることはよくある。佐藤君はこの素朴な疑問を追究するために、実験測定装置を自作し、しっかりした実験計画に沿って、いくつかの仮説を一つずつ確かめた。その結果、久能海岸の砂は吉浜海岸の砂より粒が粗くてより平たいために足跡が付きにくいということが分かった。研究の過程と結果および結論を非常に分かりやすく簡潔にまとめたことも高く評価したい。
 この研究では砂の含水量については何も調べられていないが、足跡の付きやすさ、残りやすさには含水量が関係していると思われるので、今後の研究に期待したい。

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