第55回入賞作品 中学校の部
3等賞

塩基性岩・アスファルト・鉄バクテリア
鉱物利用に関する研究
~縄文人の知恵を科学的に解明することに挑戦した僕の8年間~

3等賞

静岡県浜松市立篠原中学校3年
鈴木雅人
  • 静岡県浜松市立篠原中学校3年
    鈴木雅人
  • 第55回入賞作品
    中学校の部
    3等賞

    3等賞

研究の動機

 小学2年のときに石器の採集に参加し、縄文人が作った見事な石斧(せきふ、いしおの)を見て感動した。その後いろいろな鉱石・鉱物の採集を続ける中で、縄文人は磨製石斧の石材は塩基性岩、打製石斧は緑色片岩というように、目的に応じて石材の性質を利用していたこと、磨製石斧や漁具などの接着剤として天然アスファルト(瀝青、れきせい)を利用し、土中の鉄バクテリアが作ったベンガラ(弁柄)を赤色顔料として使用していたことなどを知り、興味を深めた。

縄文時代の「赤色漆塗り櫛(くし)」復元を目指して

 2009年に磨製石器の研究のため、福井県・鳥浜貝塚(約1万2000~5000年前の縄文草創~前期の集落遺跡)を訪れ、色鮮やかな「赤色漆塗り櫛」(国重要文化財)を見た。その赤色は「ベンガラ」というある種の鉄で作られた顔料だと知った。これまでの鉱石・鉱物の採集の経験、集めた標本を生かしてベンガラの顔料を作り、赤色の漆塗りに挑戦することにした。

《ベンガラ》

江戸時代にインドのベンガル地方産が輸入され、この名がある。成分は酸化鉄で、赤鉄鉱などの鉱物由来と、顕微鏡観察でパイプ状の粒子が密集して見える鉄バクテリア由来の「パイプ状ベンガラ」がある。パイプ状ベンガラは湿地帯にある(あった)ことから「沼鉄」あるいは「高師(たかし)小僧」「鬼板」「鳴石」「鈴」などと呼ばれる。

《高師小僧》

植物の根や茎の周りに水酸化鉄(褐鉄鉱)が付着し固まったパイプ状ベンガラ。粘土層から多く出土し、植物が腐敗して穴があいた管状をしている。日本の全国各地で見られるが、愛知県豊橋市の高師原で多くが産出し、その形の面白さから「小僧」の名がある。他産のものまで「高師小僧」と呼ばれる。浜松市気賀地区にもあることを知り、実験用に採集した。

ベンガラ作りに挑戦〈1〉

◇高師小僧の焼成実験

 高師小僧(褐鉄鉱)を焼けばベンガラ(赤鉄鉱)になるはずだ。成分性質を比較し分かったのは、焼成の確認ポイントは、色が暗褐色(黄褐色)から「赤色」になること、磁性なしが「弱い磁性」に変わることだ。

【実験1】ガスバーナーで高師小僧を10分間焼成し、色の変化や磁性の有無を調べる。

《方法》

直径約8mm、長さ約17mm、重さ約1gの高師小僧を使用。磁性の程度は冷めてから、強力なフェライト磁石(60ミリテスラ)、超強力なネオジム磁石(180ミリテスラ、525ミリテスラ)を接触させ、持ち上がり具合で判断した。

《結果》

色は黒く、磁性も強いので赤鉄鉱とはいえない。

【実験2】ガスバーナーで20分間焼成する。

《結果》

色も磁性も実験1の結果とあまり変わらない。磁性はより強くなった気がする。

【実験3】焼成により、どのくらいの時間で磁性が出現するのか。

《方法》

高師小僧9個(磁性なし)をそれぞれ1分間、2分間…9分間焼成して磁性を調べる。

《結果》

すべてに強い磁性が現れた。燃焼時間が長くなれば、比例して磁性も強くなると予想したが外れた。


 これまでの実験では、色については、燃焼時間の長短にかかわらず灰色~黒色に変化し、目指す赤鉄鉱の赤褐色にならなかった。磁性に関しても、燃焼時間にかかわらず強い磁性になり、赤鉄鉱の弱い磁性とは異なった。高師小僧の内部は変化したのか。

【実験4】高師小僧の焼成による内部の色、磁性を調べる。

《方法》

高師小僧1個を10分間焼成。キッチンペーパーに包み、ゴム製ハンマーで軽くたたいて割り、内部の色、磁性を確認する。さらに全てを細かく砕いて(1mmメッシュ以下)、磁性を調べる。

《結果》

内部は黒っぽく濃い茶褐色に変色していた。中心部に鮮やかな赤褐色もあったが、磁性がかなり強く、赤鉄鉱とは異なった。細かく砕いても、黒っぽい粒の固まりが目立ち、実体顕微鏡で、金属光沢の粒が見られた。焼成温度1300℃が高すぎるのか。

【実験5】高師小僧を粉末にしてから焼成するとどうなるか。

《方法》

高師小僧をすりつぶし、粉末(1mmメッシュ以下)をフライパンにのせ、ガスバーナーで直接1分間、3分間加熱する。

《結果》

バーナーの炎(先端)を当てた瞬間から赤く変色した。3分間では粉末が固まった。磁性はともに強だった。炎の部位の違いか。

【実験6】高師小僧を炎の温度の高い先端、低い内部の青色炎で焼成し比べる。

《方法》

同じ重さの高師小僧2個を、各15分間焼成する。

《結果》

内部の炎では磁性が強、黒色化した。先端の炎では磁性が弱まって中となり、黒色化は起きなかった。赤鉄鉱にするには1300℃以上の高温が必要なのか。バーナーのない縄文人はどうしたのか。

【実験7】縄文時代を想定し、たき火で焼成する。

《方法》

実験材料の高師小僧の量が少なかったので、周囲の鉄分を含む粘土と混ぜ、その固まりをたき火(野焼き、温度800~900℃)の中に入れて約3時間焼いた。焼けた固まりを細かく砕き、磁性の強さを調べた。

《結果》

色はうすい肌色から灰色、黒色に変化したが赤みはほとんど帯びなかった。全体の約90%に強い磁性が現れた。

高師小僧(褐鉄鉱)は何になったのか?

 焼成物が黒色、強磁性などの特徴から酸化鉄グループの「磁鉄鉱」であると予想し、4つの実験を行った。

【実験1】焼成物と中宇利鉱山(愛知県)で採集した磁鉄鉱を、実体顕微鏡で観察した。

【実験2】強力磁石への反応・程度を比べた。

【実験3】水中でのpH値、沈降速度を比べた。

【実験4】パックテストで鉄成分を比べた。

《結果》

焼成物はパックテストで二価鉄と分かり、磁鉄鉱である可能性が高い。ベンガラの赤鉄鉱は三価鉄だ。これまでの方法では赤鉄鉱を作れない。高温のガスバーナー、さらに酸化物から酸素を奪う「還元炎」を使ったのが失敗だ。

ベンガラ作りに挑戦〈2〉

【実験1】七輪でフライパンを加熱することで、1300℃以下の温度、酸化的な条件を作り焼成する。

《方法》

材料は高師小僧や鬼板、粘土など13種類(粉末)。加熱温度の目安としてハンダ(融点200℃)、銅ロウ(同500℃)、アルミ硬ロウ(同700℃)を一緒に融かした。

《結果》

いずれも加熱で色が変化し、高師小僧や鬼板は燃焼温度が上がると赤みも濃くなった。

【実験2】焼成物に生漆を混ぜ、杉板に塗って色を調べた。

《結果と考察》

全て黒くなった。漆の成分ウルシオールが鉄に酸化され黒くなったもので「漆黒」という。「赤色漆」は漆にベンガラの赤鉄鉱を混ぜて作る。同じ鉄でも黒くならない。

【実験3】漆を塗る木材の種類とその発色の違い、混ぜる時間による違いを調べる。

《結果》

ヒノキと松、杉による違い、混ぜる時間での違いもなかった。

【実験4】水中での沈降速度の違いから、上澄み液にある微粒子を選別する(水ひ)。

《方法》

高師小僧、赤鉄鉱の焼成物の上澄み液を屋外で乾燥させ、微粒子粉末と漆を混ぜて塗った。

《結果》

高師小僧はわずかな赤みを感じる黒色、赤鉄鉱では濃いブラウン色になった。


 東京都埋蔵文化財センター(上條朝宏先生)に相談したら、高師小僧の焼成温度は産地によって違うが、1300℃は高すぎるという。僕が高師原で採集した高師小僧の焼成実験をしてくれた。粉末で赤みが強かったのは1200℃。漆と混ぜて塗ったら焼成1000℃と1200℃のものが強く赤みが出て、何とかベンガラ色を再現することができた。

ベンガラ作りに挑戦〈3〉

 縄文時代のベンガラの主原料は「沼鉄」とされる。静岡、愛知、岐阜各県の縄文遺跡の近くの水田用水路など12地点で沼鉄を採集し、パイプ状の鉄バクテリア5種類を顕微鏡で同定した。うちベンガラに適した4種類についてパックテストを行い、800℃で焼成実験をした。4種類とも焼成後は二価鉄が減り、三価鉄が増えると予想したが、結果は逆だった。4種類とも磁性が発生した。ただ本物のベンガラ色に近いものが1種類あった。

感想

 縄文人のような、完璧な赤鉄鉱を作ることはできなかった。漆の利用など、現代人に勝るとも劣らない縄文人の知恵と技術に、とても驚かされた。

指導について

指導についてドルカス・アドベンチャークラブ 内山 雅之

 雅人君とは小学1年生の時から9年間の付き合いです。小学2年生の時、縄文石器の採集講座に参加したことが本研究のきっかけです。その後、火おこしに挑戦したり、ウツボを捕まえ丸焼きにして食べたり、沖縄の無人島で星空を眺めながらキャンプしたりと、まさに縄文人さながらの体験を積む中で、自然と、縄文時代の石器に興味を抱き始めました。本来は考古学の分野ではありますが、彼は何でも自分で試してみなければ納得しない性分でもあり、石器の作り方、石材の選び方、石材採集地の捜索など、さまざまな疑問に対し、科学的な調査と実験を通して研究を行いました。また中学の3年間は、パイプ状ベンガラの作り方の研究に挑戦し、十分な機材や時間もない中で、工夫と根気で最後までやり抜くことができました。体験と研究を通して培ったチャレンジ精神をもとに、彼は今年アメリカ留学に挑戦します。新たな目標に向けさらなるチャレンジが続くことと期待しております。

審査評

審査評[審査員] 宮下 彰

 8年間にわたる研究であり、大変素晴らしいものです。本研究は、縄文人がさまざまな岩石を利用して石斧などを制作していただけでなく、接着剤としてのアスファルト利用やベンガラを使用した赤色顔料など鉱物を利用したものもあることに驚きと興味をもち、実証的に縄文人の鉱物利用を解明していったものです。特に今年度は、ベンガラの材料である高師小僧や沼鉄を使ったベンガラ作りと接着剤としてのアスファルトの研究を中心として行っています。ベンガラ作りでは、高師小僧(褐鉄鉱)や沼鉄(鉄バクテリア)を現地採集し、燃成実験を条件を変えながら何回となく繰り返し行い、データを丁寧にとると共に画像の添付や双眼実体顕微鏡の活用などを行い、大変優れた研究となっています。
 ベンガラ作りでは、縄文人が野焼き程度の800度で行ったのではないかと考え、実験をしたが成功せず、予想外の1000~1200度で成功するなど、縄文人の知恵と技術の深さに驚きをもっています。今後の研究が楽しみです。3等賞受賞、誠におめでとうございます。

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