第55回入賞作品 小学校の部
1等賞

なぜオオサカサナエは
びわ湖の白ひげ浜に生まれるのか? パート3

1等賞

滋賀県大津市立中央小学校3年
白神大輝
  • 滋賀県大津市立中央小学校3年
    白神大輝
  • 第55回入賞作品
    小学校の部
    1等賞

    1等賞

研究の動機

 1年生の夏、滋賀県・琵琶湖の「白ひげ浜」で、なぞのトンボ「オオサカサナエ」に出会った。環境省レッドリスト(2012年)で絶滅危惧Ⅱ類に指定されるトンボで、国内では琵琶湖・淀川水系とその周辺に分布が限定される典型的な隔離分布種だ(井上清、1979年)。希少種の大事なデータとして、今年も継続して調査した。

〈1〉予備調査「白ひげ浜に隔離分布した歴史と環境調査」

《歴史》

琵琶湖は約400万年前に形成された古代湖。白ひげ浜のオオサカサナエは、氷河期に日本列島が大陸と陸続きだったことの〝生き証人〟だ。

《地形》

白ひげ浜は比良山地の山すそで、沖合の幼虫が生息する水深約8mの水域は岸から50~100mと近いことなど、成虫、幼虫の生息に適している。

《気象》

白ひげ浜は「日本海側気候」「太平洋側気候」「瀬戸内型気候」の3域の接点にあたる。琵琶湖北側の北湖の水は、基本的に北から南に流れるが、白ひげ浜では南から北へ流れる。そのため近くの川からの砂れきが堆積しやすい。白ひげ浜には、西高東低の気圧配置のときに、比良山地から湖上に向かっての強い北西風「勝野(比良)おろし」が吹く。1日のうちでも昼間に湖からの湖風、夜間に陸からの陸風が吹くため、夏の日中でも涼しい。この湖特有の「湖陸風」が、オオサカサナエが真夏の日中に羽化するのに適した気温を調節していた。さらに琵琶湖では「朝なぎ」「夕なぎ」という無風状態も発生しやすい。その「なぎ」のタイミングで、オオサカサナエは白ひげ浜に出現している。秋の昼間にも「なぎ」が発生していた。気温と水温の差で発生した風(サーマルウインド)が北西風を打ち消すことによる「なぎ」だ。今回はこの「なぎ」にも、メスが産卵に訪れたのを確認した。

〈2〉予備実験「ブルーギルはヤゴを食べる悪い魚なのか?解剖実験」

 オオサカサナエの羽化数が、外来魚ブルーギルの産卵日に急に減っていることから、ヤゴが食べられたのではと考えた。外来魚を釣る体験イベントに参加して釣ったブルーギルを解剖し、胃の内容物を調べた。ヤゴの下唇があった。

〈3〉予備調査「大阪に本当にオオサカサナエはいるの?」

 名前の由来となっている大阪の淀川中流の生息地を調査した。羽化中のオオサカサナエを発見した。白ひげ浜と同様に、近くには水の流れを緩やかにするために石を積んだ「水制」がある。そのおかげで、岸近くに砂がたまり、遠浅になっている。

〈4〉予備調査「白ひげ浜はどんな所? 漂着物調査」

 白ひげ浜(長さ約1.2㎞)をA~Iの9区間に分けて調査した(2014年6月24日~9月2日)。全区で確認されたオオサカサナエの羽化殻907個のうち183個はヤゴとして、水深約7mまでの湖底に繁殖している水草の藻(も)とともに打ち上げられていた。とくに多かったA、C、I区間では、湖の砂れき底にすむカワニナも一緒に漂着していた。

〈5〉羽化殻調査「オスとメス、どっちが生まれたの?」

 羽化殻は12年調査で358個(オス183個、メス175個)、13年に695個(オス394個、メス301個)、今年は907個(オス446個、メス461個)を採集した。13年の研究で、オオサカサナエは羽化の初期にオスが多く生まれることが分かった。今回は羽化(殻)数が全体の1/4に達するまでを「初期」、1/2までを「中前期」、3/4までを「中後期」、それ以降を「末期」として各期のオス・メスの割合(%)を出した。やはり羽化数は「初期」にオスが相対的に多く、その後にメスが多くなった。

〈6〉羽化殻調査「白ひげ浜の区間別羽化数」

 オオサカサナエが最も多く羽化したのはA区間だ(907個のうち308個)。同じA区間で羽化した他種トンボはメガネサナエ、ウチワヤンマ、オオヤマトンボの3種だけ。いずれも水深のある所に生息するトンボだ。

〈7〉羽化殻調査「オオサカサナエが主に夜間羽化するって本当?」

 定説では「オオサカサナエは主に夜間から日中にかけて羽化する」という。確かめるため、羽化数がピークに近い7月24~26日の明け方、夕方にA~I区間で調査した。「夜間は羽化していない」とする発電所放水路での調査(井上清、1979年)と似た生息環境にあるD、E区間のデータについて検討したところ、やはり、主に夜間には羽化していないことが分かった。

〈8〉成虫の飛来・産卵調査「オオサカサナエを見つけられるか?」

 飛来したオオサカサナエの成虫を、2012年は朝に5匹(頭)、13年は昼に6匹確認。14年は早朝と夕方、昼に37匹を確認した。計48匹(オス・メス各24匹)のデータから、オオサカサナエは白ひげ浜のA、B、E区間、山すその休耕田に多く、場所的な〝すみ分け〟をしている。A区間では、同じメガネサナエ属のメガネサナエも105匹とオオサカサナエの約7倍も多く観察され、混生している。
 オオサカサナエの産卵は、湖岸から約10mの沖合で「打水産卵」を行う(メガネサナエは波打ち際で産卵)。メスは単独で、昼か夕方に発生する白ひげ浜特有の「なぎ」にタイミングを合わせて産卵する。オスは夕方に白ひげ浜に飛来しない。オス、メスとも1日のほとんどを山すその休耕田ですごす。

〈9〉ヤゴの生態調査「オオサカサナエのヤゴって、どんなヤゴ?」

 早朝に羽化するために白ひげ浜に来たヤゴ(終齢幼虫)を動画撮影した。波に流されながらも、肛門から体内の水をジェット噴射させて水中を進む様子、漂着した場所で羽化する様子などを観察した。卵からふ化した前幼虫、1齢幼虫、3齢幼虫を顕微鏡で動画撮影し観察した。

〈10〉予備実験「羽化のスイッチ温度は?」

 13年の調査で、オオサカサナエの初見日(6月25日)の気温は28℃、水温26℃。その温度が「羽化のスイッチ」と予想し、ヤゴを飼育し確かめるつもりだったが、ヤゴを採集できなかった。そのため飼育中の他種トンボ(流水性)の羽化の気温・水温、オオサカサナエの過去の羽化殻調査と気象庁データなどを検討した。気温や水温が高いと早く羽化し、6月の気温が高いとたくさん羽化するようだ。

〈11〉サーマルウインド発生の実験

【湖風】昼間に陸地が暖められ、冷たい湖から陸地に向かって吹く風。

《方法》

大きな水槽容器の中に、陸地に見立て日光で暖めた白ひげ浜の砂、冷たい湖に見立て保冷剤で冷やした水を並べて置き、火のついた線香を間に立てて、煙の流れを調べた。

《結果》

冷たい水から砂の方向に煙が流れ、湖風が発生した。


【陸風】夜間に冷えた陸地から、水の温かな湖に向かって吹く風。

《方法》

白ひげ浜の砂とお湯を入れた容器を並べ、線香の煙を観察した。

《結果》

砂側からお湯の方向に煙が流れ、陸風が発生した。

《観測》

琵琶湖の湖畔での観測でも、気温より水温が低いときに湖からの風、水温の方が高いときに山からの風があった。

次の課題

◇ヤゴが水深8mにもぐれる秘密は?:オオサカサナエの羽化殻の腹部の断面外形は五角形をしている。紙で四角形、五角形、六角形の外枠を作り上からつぶすと、五角形だけぺしゃんこにならない。なぜか?

◇採集直後の羽化殻から風船のようなものが出てきた。何だろう?

感想

 オオサカサナエが白ひげ浜に多産する理由が分かった。砂やヤゴが漂着する場所だったのだ。幼虫は深い湖底にもぐって身を守り、産卵のメスは「なぎ」を見計らって出現する。特殊な環境に適応したトンボだから目撃も少なかったのだ。

指導について

指導についてみなくち子どもの森自然館 河瀬 直幹

 前回コンクールで入賞した研究の続編として、次なる課題に、果敢に挑戦しました。野外調査では、トンボ生態を探究する強い意志とセンスが感じられました。特筆すべき成果は、謎の多かったオオサカサナエの繁殖生態に関する新たな知見が得られたことです。なわばり・交尾行動が、主に砂浜から離れた林縁の灌木上で観察され、複数の産卵行動が、夕方および秋の昼のなぎの時間帯に、波打ち際からやや沖で観察できたことは、本当に素晴らしいことでした。滋賀県内外のトンボ同好者の皆でも感心しました。また、オオサカサナエが白ひげ浜に多く生息する理由として、琵琶湖の水流、地形や気候から考察したことは、大きな視点からの仮説で、小学生にとって努力が必要だったと思います。区間別の羽化数の比較など、データの扱いについても上達しました。今後も、こうした粘り強い観察による成果が、大きく評価される自然科学界であってほしいものです。

審査評

審査評[審査員] 小澤 紀美子

 びわ湖淀川水系の白ひげ浜に見られる絶滅危惧Ⅱ類に指定されているオオサカサナエとメガネサナエの2種類の隔離分布種といわれるトンボの調査研究で、昨年の2等賞に引き続き1等賞となった調査研究です。受賞おめでとうございます。
 今年は3年目の調査研究で、多くの環境要因が及ぼす自然界の相互関連性を探究すべく4つの課題に焦点をあてて根気よく調査をしてデータを集め、さらに実験のデータを積み重ねてきて、白ひげ浜の「地形と風」によって生命をつないできたトンボの生き物として次の世代を残していくメカニズムを明らかにしていることに感心します。兄弟2人が、課題に関して実証的に取り組むだけではなく、他の方の研究論文などの文献や気象データ、さらには所属している研究グループの成果も引き寄せて考察しているなど、これからの研究者としての探究の姿勢の成長がとても楽しみです。今後も調査研究をつづけ、残された2つのナゾに挑戦していくことを期待しています。

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