第64回入賞作品 小学校の部
秋山仁特別賞

目指せ!全国大会制覇!!私の走幅跳5m計画

秋山仁特別賞

東京都青山学院初等部 6年
大川 舞美
  • 東京都青山学院初等部 6年
    大川 舞美
  • 第64回入賞作品
    小学校の部
    秋山仁特別賞

    秋山仁特別賞

研究の動機

 小学2年生の時、大好きなかけっこで初めて大きな陸上大会に挑戦し、1位になれず悔しい思いをした。陸上競技に興味を持ち始め、世界陸上などをテレビ観戦するうちに、トップアスリートたちが挑んでいる走り幅跳び(以下、走幅跳と表記)に魅了されるようになった。走幅跳を始めて4年目、小学6年生となり、2023年7月の東京都大会代表選考会に走幅跳選手として出場した。惜しくも僅差の2位に終わり、目指していた全国大会へ出場することはできなかった。
 その反省と悔しさ、上手になりたいという強い思いから、走幅跳を科学的に検証しようと思った。大好きな走幅跳をより好きになるために、楽しくてたまらない練習をより楽しむために、当面の目標である「走幅跳5m」という高い壁を突破するために、科学的な検証から自分自身を進化させたいと、この研究を始めた。

実験検証1〜3

 走幅跳は①助走、②踏み切り、③ジャンプの連続する3つの動きから成り立っている。3つの動きそれぞれに、より遠くへ跳ぶための理論(下の表)があるが、私自身の動きと理論を比べて検証し、今後の練習に生かしていきたい。
 実験検証1〜3は、2023年6〜7月に行った試合や練習の動画20本以上をチェックして検証した。
 実験検証1〜2では助走を調べた。私はスタートから16歩目に左足で踏み切るのだが、動画から1歩ごとにかかった時間と距離を測定する。次に、表計算ソフトのエクセルで歩数ごとの歩幅と速度の推移をデータ化し、グラフにまとめた。

実験検証1 助走の加速

 実験検証1では、歩数ごとの助走速度を検証した。0〜5歩目、6〜10歩目、11〜16歩目と3段階で助走速度が上がっていた。6月は助走の途中で速度が上がったり下がったりし、ばらつきがあったが、7月は比較的スムーズに速度が上げられている。なかでも7月29日の助走は11〜16歩目で8m/秒を超えている上、100m走のタイムもよくなっているので、走りの質が高まっていることが分かった。

実験検証2 ストライドの安定性

 走幅跳の助走は、前半からいつも同じ一定のストライドを刻み、手前で減速せずに踏み切ることが大切だ。実験検証2では、歩数ごとの距離、歩幅を検証した。すると、歩幅は0〜5歩目、6〜16歩目の2段階で広くなっていた。6〜16歩目はばらつきはあるものの、±10cmで走れている。7月は6月より平均歩幅が10cmほど伸びていた。コーチから「0〜5歩目の助走がコンパクトになりがちだから、もっと大きく体を使うこと」というアドバイスをいただいているので、この結果と合っている。

実験検証3 踏み切り時の目線

 目線の角度は測れないため、踏み切ってから跳び出す時の跳躍角度を調べることにした。まず動画から踏み切る直前の速度(助走10〜16歩の平均速度)を計算した。その数字を初速度として放物運動シミュレーション式に入力し、跳躍角度が仮に10・15・20・25・30度だった場合それぞれの、理論上の滞空時間を計算した。次に動画から現実の滞空時間を計測し、理論値と比較することで跳躍角度を割り出した。
 例えば私の7月29日試合本番の跳躍は、踏み切る直前の初速度が7.6m/秒、滞空時間は0.60秒だった。この数字から跳躍角度を推定すると21.3度となる。シミュレーション式からは理論上の到達距離も算出でき、初速度7.6m/秒、跳躍角度21.3度、滞空時間0.60秒なら4.59m跳べたはずだ。現実の跳躍結果が4.19mだったことから、上手に跳べていないことが分かった。
 初速度7.6m/秒、跳躍角度21.3度、滞空時間0.60秒という跳躍の初速度を変えてみたり、跳躍角度を変えてみたりすることで、跳躍結果がどう変わるかも調べてみた。すると到達距離により影響を与えるのは、初速度であることが分かった。跳躍直前速度を上げれば、記録が大きく伸びるわけだ。これまでの練習は目線に重きをおいていたが、跳躍直前の速度を意識するようにしたい。

実験検証4〜5

 実験検証4〜5では2023年8月の練習で行った44本の跳躍を動画で撮影し、スイングやブロッキングの良し悪しと滞空時間の関係を検証した。各跳躍のスイングやブロッキングに1〜3の点数をつけ、点数が高いよい跳躍だと滞空時間が伸びるのかを調べてみた。

 すべての跳躍にそれぞれ点数をつけて検証した結果、スイングは「踏み切り時にひざが伸びているほうが滞空時間が長くなり」、「振り上げる足が体の前にあればあるほど滞空時間は長くなる」。ブロッキングは「左手と右足のタイミングが一致するほど滞空時間が長くなり」、「踏み切り足が巻かないほど滞空時間が長くなる」。

実践検証

 2023年8月27日、検証結果を踏まえた集大成として、大会に出場した。残った結果は4.24mの2位、自己ベストタイだった。望んだ結果ではなかったが、この大会の試技では4.40m、4.30mという記録も出た。検証してきた理論に基づいて練習を積めば、間違いなく到達記録が伸びることが分かった。大好きな走幅跳で飛躍できるように、これからも楽しみながら全力でがんばりたい。

指導について

大川 肇

 スポーツのパフォーマンスを数値化することは昨今では非常に重要と思います。大谷選手でも球の速度、回転数、回転軸を数値化して一球ずつ確かめて「球の質」を見極めているそうです。走幅跳競技において、自身が経験者であるコーチによるアドバイスは「もっと前半からスピード感を出して」「ぐっぐっと助走の踏み出しを強めに」「掛かり気味にならないように」等々、イメージは伝わるものの、「日にちや場所が変わった場合の再現性」「跳躍の質」といった点では難しいと感じていました。身体が覚えるまで反復することというのが答えなのかもしれませんが、小学生の体力・能力では「再現性」を出すことが難しいのです。この研究では「小学生の跳躍を出来る限り数値として統計的に考察すること」、「数字で得た自分なりの考えを経験者のコーチに必ず確認すること」の2つを意識しました。数字で示すと小学生でも理解しやすい上、相手に伝えやすいからです。本実験をしているときも悩みましたが、スピード、歩幅、タイミング、風、身体の角度など多くの可変的な要素があるなか、何の条件を固定して何を改善するべきなのかを決めることが難しかったので、再現性を取りやすい要素から決めていくよう指導しました。今回の研究で最も重要視したのは、研究での良い成果を出すことよりも、いかに数字的に納得して再現性を出すことができるかを一緒に考えるところでした。最も苦労したのは、結果ありきではなく、多くのデータから理論と結び付ける数字を見つけるために、1日に50 回以上跳んで動画を撮ることでした。「跳ぶ体力」と「膨大なデータ解析」が勝負なのです。この研究を通して、自然科学の事象を数字や見えるものに表すことの楽しさ、重要性を学んでもらえたと思っています。

審査評

[審査員] 秋山 仁

 本研究を始めたキッカケは、大川さんが走り幅跳び(以下、走幅跳と記す)東京都大会代表選考会で僅差の2位で終わり、その反省と悔しさだったそうです。「どんな練習をしていけばもっと遠くに跳べるのか?」、「当面の目標である“走幅跳5m”を突破するためには何が必要なのか」を科学的に分析し、それを練習に取り込み着実な進歩を遂げた実録です。普通はアスリートとコーチが一体となってやる仕事を大川さんは一人で成し遂げています。各回の跳躍を動画に撮り、助走のスピード、目線の角度などの9項目で評価し、レーダーチャートに表し、「見える化」した結果、次の弱点を発見している:“膝が曲がったまま踏み切っているため腰が落ち、つぶれた跳躍になっている”、“左手と右足が連動して動いていない”。実験で見つけた課題を克服するためのトレーニングに結びつけ、パフォーマンスの向上に繋げている。  スポーツジャーナリストの玉木正之さんは常日頃、「トップアスリートになるためにはこれからの時代、自分の頭で考えるインテリジェンスをもたなければならない」と述べているが、大川さんはまさにその典型であるように思いました。5mの壁を乗り超える日がやって来る日を期待しています。

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