第64回入賞作品 中学校の部
秋山仁特別賞

もったいないをやっつけろ!!僕だって油職人!! 6年目の挑戦

秋山仁特別賞

愛媛県新居浜市立角野中学校 2年
松本 琉希
  • 愛媛県新居浜市立角野中学校 2年
    松本 琉希
  • 第64回入賞作品
    中学校の部
    秋山仁特別賞

    秋山仁特別賞

研究の動機

 スイカの種から油を作る研究を5年間続けてきた。コロナ禍で手を洗う機会が増え、家事をする母の手がひどく荒れているのを見て、スイカ油で肌に優しい石けんが作れないかと考えるようになった。スイカ油を搾るには大量のスイカの種が必要なため、まず材料として十分な種を集めながら、石けんについて詳しく調べた。前回の研究でオリーブオイルを使って6回の予備実験を行ったが、実験を重ねるごとに疑問が生まれ、検証すべきことが残った。今回は疑問を解き明かし、肌に優しいスイカ石けんを完成させたい。

石けんとは

 石けんとは、化学の現場では「脂肪酸のアルカリ塩」のことを指す。脂肪酸とアルカリを化学的に反応させた化学物質で、汚れを落とす界面活性剤のひとつだ。古代メソポタミアで使われていた植物の灰には炭酸カリウムが含まれ、脂肪酸とアルカリを反応させるという点では、5000年前からずっと作り方は変わらない。
 石けんの主成分である界面活性剤は水と油、両方になじみやすい性質を持っている。水と油が反発しあう界面(水と油を一緒に入れた時にくっきり分かれる境目)で、両者を混じり合わせる役割を果たす。油になじみやすい部分が汚れに吸いついて取り込み、服や体などから汚れを引きはがす。そして汚れを細かい粒にして水中に散らし、水と一緒に流してしまう。

石けんの成分について

 手作り石けんの主成分は一般的に、油脂と水分、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)だ。油脂と水を苛性ソーダで中和させることで石けんができる。油脂はオリーブオイルやココナッツオイルなど、水分は精製水や浄水器の水、ハーブ水などが使われる。石けんは脂肪酸をアルカリと反応させて作られるものなので、pH9〜11程度の弱アルカリ性だ。市販されている弱酸性ソープは、正確には石けんではない。この研究では、pH8〜10程度の弱アルカリ性の石けんを作ることを目指す。

けん化率について

 油脂とアルカリが石けんになる時の化学反応を「けん化」と呼び、油脂を石けんに変える苛性ソーダの割合を「けん化率」と呼ぶ。油脂すべてを石けんに変える苛性ソーダの割合はけん化率100%、アルカリ過多だとけん化率は100%を超え、肌に優しい石けんではなくなる。肌に優しくするためには、けん化率を85〜95%に設定して、石けんのなかに油脂成分が残るように仕上げる。

灰を使うことにした経緯

 苛性ソーダは塩を電気分解することで得られる強アルカリ性の劇薬で、未成年は買うことができない。この研究のテーマは、捨てられてしまうものを生まれ変わらせることなので、苛性ソーダは使わず古代メソポタミアの人々のように灰を使うことにした。
 前回までヒノキ、ホワイトウッド、スギ、パイン、タモの端材を灰にして精製水を加え、24時間置いて調べたところ、タモの灰1gに小さじ1の割合で精製水を加えたものがpH14強と最もアルカリ値が高かった。前回はタモの灰があまり作れず、pH14だったヒノキの灰と混ぜて使ったが、タモの割合が多いほうがよくけん化されていたため、今回はタモ100%の灰で実験したい。

オリーブオイルでの予備実験

 今回の研究では、スイカ石けんを次のように作る。
①タモ100%の灰で作ったアルカリ水を使い、予備実験としてオリーブオイルで石けんを作る。
②スイカ油を搾り、スイカ石けんを作る。
③洗って汚れの落ち方を確かめる。
 前回の研究で、泡立つ石けんを作るには「水溶液を煮つめて濃くする」、「ミキサーでしっかりと混ぜる」、「温度、室温、風通しに注意しながら調整する」、「2か月ほどゆっくり熟成させる」ことが大切だとわかっている。
 以上を踏まえオリーブオイルの予備実験を、前回の1〜6回に続き、7〜10回行った。

予備実験に必要なタモ水溶液の作り方

 燃やしたタモをふるいにかけ、さらさらの粉状の灰(30g〜60g)に精製水(小さじ30・150ml〜小さじ60・300ml)を加えて24時間置く。ペーパーフィルターで灰と水溶液に分け、水溶液を煮つめる。煮つめた容器の底に結晶が沈んでいたらスポイトで取る。

オリーブオイル石けんの作り方

 オリーブオイルを湯せんにかけ40℃弱になるまで混ぜ、タモ水溶液も40℃弱にする。オリーブオイルにタモ水溶液を少しずつ入れながら混ぜ、すべて加えたら30分ほど手早く混ぜる。混ぜ終えたらラップをかけ、トレースが出る(とろりとしてくる)まで様子を見ながら時々かき混ぜる。12〜24時間ほどでトレースが出るので紙コップに流し込み、保温しながら24時間置く。24時間で保温はやめ、1週間寝かせて成型し、さらに1週間乾燥させる。最後に日の当たらない風通しのよい場所で1か月以上熟成、乾燥させる。

予備実験での考察

 7〜10回行った予備実験の結果をまとめた表は、下記のとおりだ。

 7回目の灰40g、精製水小さじ40(200ml)が、最もよい仕上がりになった。保温の時に靴用カイロを使ってゆっくり冷ましたほうがよいこともわかった。9〜10回目は灰の量を増やし、固まりやすくしてみたが、アルカリ値が高くなりすぎて肌に優しい石けんにならず、洗顔実験を行わなかった。

スイカ石けんを作る

 予備実験の結果から、スイカ油10g、タモの灰40gと精製水200mlで作った水溶液を8.69gまで煮つめた水溶液3gを材料に、保温に靴用のカイロを使いながら、スイカ石けんを作ることにした。

 スイカ油は、次のように搾った。油の酸化を進める酵素の働きを止めるためスイカの種を15分ほど煎り、細かく砕いて20分蒸し、ジャッキで圧力をかけて油を搾る。搾った液体には水分が含まれるため台座につるして分離させ、油だけを取り出す。今回、オリーブオイルよりもさらさらとした濃いオレンジ色のスイカ油をこれまでで最多、14.34g搾り出すことができた。
 2か月熟成させたスイカ石けんは、オリーブオイルとは比較にならないほど質がよかった。洗浄後しばらく経った時の肌のさらさら感も文句なく三つ星だ。母もその使用感に驚きながら、気に入ってくれている。

指導について

松本 由佳

 このような名誉ある賞を頂き大変光栄です。日常の中に埋もれそうな小さな疑問を拾い上げた琉希の感性を大切にしたい気持ちから始めた実験は、想像もしなかった成果と評価を頂けました。柔軟な発想を大切にしたかったので、6年間を通して指導と言えることは何もしていません。「どうしてこうなったと思う?」と声をかけることで考えを引き出すことにとどめ、琉希自身が話すうちに気づいたことを根気強く実験し、検証していくことで答えを探っていました。常に新しい遊びを思いついたと言わんばかりに、次から次へとやりたいことを伝えてくる琉希と一緒に全力で遊んでいると、科学への興味の第一歩を踏み出し、悩みながらも自分で考える楽しさを知ることが出来ていたという表現が一番私たちらしいと思います。
 6年間で52.5玉ものスイカを食べ、たくさん話し合い、実験結果に一喜一憂したことは琉希を大きく成長させただけでなく、家族の大切な思い出となりました。

審査評

[審査員] 秋山 仁

 この研究は、スイカの種を利用して高品質な石けんをつくったという、6年間の継続的な探究活動の成果です。そもそもこの研究は、家事をするお母さんの手荒れを少なくしたいという思いから始まったそうです。石けんは、脂肪酸とアルカリ性の物質を化学的に反応させた化合物で、汚れを落とす界面活性剤のひとつです。脂肪酸とアルカリ性物質を反応させ、石けんをつくる方法は古代メソポタミア時代からよく知られていました。松本君は未成年なので劇薬の苛性ソーダを購入できないため、使用するアルカリ性物質として、古代メソポタミアの人々のように“灰を使って石けんをつくる”ことを考えました。そのため、まず、ヒノキ、ホワイトウッド、杉、パイン、タモの端材を灰にし、その結果、タモ水溶液1gがpH14強と最もアルカリ性が高いことを突きとめ、アルカリ性の物質としてタモ1g水溶液を採用しました。そして、もう一方の脂肪酸(油)の成分としては、オリーブオイルとスイカの種からとった油の2種類を採択し、それぞれに関して石けんづくりに挑戦しました。その結果、スイカの種から抽出した液を使ってつくった石けんは泡立ち、汚れ落ち、潤いの各観点からオリーブオイルでつくった石けんより優れていたという決果を得ています。
 “化学の学習”と“親孝行”そして“ECO”の3つの成果を兼ね備えた素晴らしい作品でした。これからも工夫して皆に優しい成果をもたらす探究活動を行うことを期待しています。

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