第57回入賞作品 小学校の部
2等賞

食生活を通してのかたつむりと僕とのコミュニケーション

2等賞

大阪府池田市立五月丘小学校 5年
八田 知也
  • 大阪府池田市立五月丘小学校 5年
    八田 知也
  • 第57回入賞作品
    小学校の部
    2等賞

    2等賞

研究の動機

 2年生の秋に担任の先生からカタツムリ2匹をもらい、飼育を始めた。3、4年生での研究で「カタツムリはカルシウムが大好物だ」という大発見をした。さらに興味がわいたので引き続き実験を行うことにした。

実験1:カルシウム剤を探せ!~嗅覚・視覚の実験~

 カタツムリはカルシウム剤が好物だ。近くに置くとすぐになくなるが、どうやって見つけるのか。食べたことのないカルシウム剤が、どうしてカルシウムが豊富な食べ物だと分かるのか。

〈方法〉

 カルシウム剤をいろいろな所に置いてカタツムリ(10匹)に与え、その様子を観察する。

〈結果〉

キュウリの中:カタツムリが食べた時にできた穴にカルシウム剤を入れて置くと、3時間で発見し食べていた。
炭の山の中:カルシウム剤の上や周囲を炭でおおって見えなくした。7時間後に発見した。炭には消臭効果があるようだ。
乾燥ニンニクの上:強力な臭いで、初めはのけぞって嫌がったが、6時間後、臭いに慣れたのか食べ始めた。
コーヒーの粉の上:麻薬犬もだますといわれていて消臭効果が抜群だ。カルシウム剤が見えているのに、2日間全く近寄らなかった。換気をして続けると、その後2日間で3分の2を食べた。
カルシウム剤を食べた時のフンで囲む:カタツムリのフンは食べたものに似た状態になるが、フンは食べない。そこで、カルシウム剤を食べて出たフンでカルシウム剤を囲んだものを与えた。3時間後、1匹が食べ始めた。完食後、今度はフンまで食べだした。他のカタツムリは無反応だった。
カルシウム剤の粉をフンに混ぜる:多くのカタツムリがフンを食べてしまった。

《結論》

 カタツムリは嗅覚・視覚でエサを探しているが、臭いがないとほとんど見つけられない。カルシウム剤を隠しても、臭いがすれば探し出せる。コーヒー粉の結果からも、嗅覚に頼っていることが分かった。  実験に使ったカタツムリは、これまでにも何度もカルシウム剤を炭の中に隠して観察したので、しばらくするとカルシウム剤を置いていなくても炭の中を探すようになった。カタツムリは嗅覚・視覚に加えて、経験や記憶でもエサを探すようだ。

実験2:サワガニ、カワニナもカルシウム剤を食べるのか

 カタツムリ以外にも、貝殻や甲羅をもつ貝やカニなどもカルシウム剤が必要なはずだ。

1.サワガニ実験

〈方法〉

 野生のサワガニの巣穴(11カ所)のそばにカルシウム剤を置いて、様子を調べる。

〈結果〉

 2日間で11カ所のうち9カ所で食べられていた。早いものは置いて1時間後にはなくなった。巣穴に持ち帰るサワガニや、食べて口の周りにカルシウム剤の粉が付いているサワガニもいた。

2.カワニナ実験

〈方法〉

 野生のカワニナは水中にいてカルシウム剤を近くに置けない。そのため6匹を採集して水槽で飼育し、カルシウム剤を与えて観察する。

〈結果〉

 石に上がって、カルシウム剤を水で溶かしながら食べていた。カタツムリがよく食べる卵の殻粉やザリガニのエサも与えたら、それらも食べた。石の上のカルシウム剤を目がけて真っ直ぐに進んで来るのもいた。カルシウム剤は粉にした方が、すぐに寄ってきた。

《結論》

 サワガニもカワニナも、カルシウム剤が好物だ。ただ、食べたことがないはずなのに「食べ物だ」と見分けられるのが不思議だ。

実験3:サプリメント実験

 カルシウム剤を与え続けると、そればかりをずっと食べている。エサを野菜ではなく、そうしたサプリメント(栄養補助剤)で育てたらどうなるか。

〈方法〉

 体重の近いカタツムリを、サプリメントだけを与える「サプリメントチーム」(2匹)、主に野菜を与える「ノーマルチーム」(2匹)に分けて育て、3カ月間の体重変化を調べる。

サプリメントチームのエサ:カルシウム剤、スピルリナ、桑葉、マルチビタミン、グルコサミン・コンドロイチン・コラーゲン・ヒアルロン酸のミックス、マルチファイバー(すべて粉末)。これらをミックスしたものと少量の小麦粉、きな粉、コーンスターチのいずれかを混ぜて与える。成分が強すぎると危険なので、薄めるためだ。

ノーマルチームのエサ:レタス、ニンジン、ナスなどの野菜。たまにカルシウム剤、卵の殻粉、ザリガニのエサを少量与える。

〈結果〉

 開始時(2015年8月21日)から終了時(11月22日)までの体重変化は、
・サプリメントチーム[A:1.72g→1.57倍、B:1.50g→3.75倍、C(9月27日から参加):0.50g→2.9倍]
・ノーマルチーム[D:1.67g→1.32倍、E:1.30g→1.53倍]

《結論》

 サプリメントを食べさせた方が、早く成長した。殻につやが出る効果も見られた。途中、サプリメントチームが心配で何度か野菜を入れてみたが、Cは少し食べたが、他はほとんど食べなかった。後日(2016年6月)に何度かAとBにサプリメントを与えてみたが、食べなかった。あの時は決して好きで食べていたわけではなさそうだ。

実験4:条件反射実験

 カタツムリはエサを与えても一斉に食べだすのではなく、寝ていたり、無反応だったりと気まぐれだ。でもカルシウム剤の実験では、全員が一斉に食べだしたので驚いた。昨年、実験前に断食をさせていた時は、ケースのこちらの面に向かって行ったり来たりする行動をした。「エサが欲しい」と訴え、人間に何らかの意思伝達をしようと努力しているように見えた。音の聞こえないカタツムリ(別の音実験で証明)には難しいことだが、何とかコミュニケーションが取れるようになって、エサを与えたら集まって来るように訓練したい。

〈方法〉

 触覚と視覚でコミュニケーションを取ることにする。エサを与える10分前に、色の多い絵「鏡の前の少女」(ピカソ作)をケースの横に置く。エサを置く直前にカタツムリの殻を3回ノックする。エサは3時間置いて回収する(食べている時は延長)。最初の1週間はカタツムリをエサの上に置いて、エサがあることを教える。

〈結果〉

 実験は2016年3月27日から6月28日まで約90日間行った。訓練したカタツムリはのべ8匹(途中2匹離脱)。開始から2週間すぎて反応するカタツムリが出た。絵を見ただけで降りてくるものもいた。後半は、絵に反応するものが減り、ノックによく反応するようになった。絵を置いてからエサを置くまで10分も間があり、すぐにエサがもらえないことを学習したからだ。多い日には半数が反応するなど、カタツムリとのコミュニケーションは取れたと思う。雨の日や暑い日、寒い日は反応が悪い。カタツムリは夜行性なので、夜遅い時間に実験できたら、もっと良い反応が得られたかもしれない。

《結論》

 カタツムリは、一定の条件で訓練すれば視覚や体への振動で、エサがもらえることを判断できるようになる。

まとめ

 最終目標の「エサを与えたら一斉に集まりエサを食べだす」ことは実現できなかった。その理由として、3年間観察して考えた結論は、①カタツムリは24時間単位で生活していない。そのため個体や日によって睡眠時間の長さが違う。②個々の行動は気温・湿度・天気などに影響される場合がある。③序列か相性なのか、一緒に食べるのを嫌う個体がいる。

感想

 音の聞こえないカタツムリとコミュニケーションを取るヒントが発見できたことは、ペットとしてのカタツムリと僕との距離が縮まった感じがして、とてもうれしい。

指導について

指導について八田 清子

 今年の実験は何をしようか? ワイワイガヤガヤ家族で話し合うことから始まります。こんなことができたら面白いな! 全く反応しなかったらやばいよね! 笑いの中で会話が弾みます。2年生の時、担任の先生が飼っていたかたつむりが卵を産み、生まれた赤ちゃんをもらってきたのが研究のきっかけでした。最初は「好物決定戦」からのスタートでしたが、研究3年目の今回は多くの実験をするまでに成長しました。子供というのは突飛な発想を持っていますがそれを聞き逃さず一緒に面白いねと共感し、形になるよう手伝いをするのが私たちの役目だと思っています。小学生の自由研究は単に実験をして結果を出すだけではなく、その過程で学ぶものの方が重要なのかもしれません。発想する力、観察方法、生き物とのふれあい、失敗、レポートの書き方、写真の撮り方、継続する力など毎年成長を感じます。このことが彼のこれからの人生にプラスになってくれたらと願っています。

審査評

審査評[審査員] 髙橋 直

 かたつむりがおもに臭いを頼りに好物を見つけていることを観察し、さらにかたつむりの学習能力について実験した面白い研究である。かたつむりの食事時間を決めて、食べ物を与える10分前にいつも同じ絵を飼育ケースの横に置く。さらに食べ物を置く直前にかたつむりの殻を3回ノックして、食べ物を置いた場所への移動を観察することを3カ月間毎日おこなった。その結果、絵を置いただけで移動を開始する個体が現れたり、ノックに反応して食事を始める個体が出たりと、興味深い行動が観察されるようになった。そのうちに絵に対する反応が悪くなり、ノックでの反応だけになった。これを、絵が置かれてもすぐに食べ物は出されず、ノックで食べ物が置かれるということを学習したのではないかという考察につなげている。では、10分前にノックして、直前に絵を置いたらどういう結果になるのだろうか。他にもいろいろ工夫ができそうで、それを考えるだけでも楽しくなる論文である。

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