第51回入賞作品 中学校の部
継続研究奨励賞

台所の科学!ふきこぼれの原因究明vol.3

継続研究奨励賞

茨城県龍ケ崎市立愛宕中学校 3年
廣瀬 潤
  • 茨城県龍ケ崎市立愛宕中学校 3年
    廣瀬 潤
  • 第51回入賞作品
    中学校の部
    継続研究奨励賞

    継続研究奨励賞

研究の動機

 サトイモや麺類を茹でる時の「吹きこぼれ」について興味をもち、一昨年から研究してきた。その結果分かったことは、
煮汁の色や透明度と吹きこぼれやすさに相関関係はない。
吹きこぼれやすいものの煮汁は、泡が消えにくい。
吹きこぼれやすいものは、煮ている材料そのものからも細かい泡が出ている。
吹きこぼれやすいものは、温度上昇の速度が遅く、泡がはじける前に次の泡ができてしまう。
加熱することにより細胞同士のつながりがもろくなり、すき間ができやすくなることが吹きこぼれの原因だ。
吹きこぼれやすいものの煮汁は、粘り気が強い。
吹きこぼれやすいものの煮汁には、デンプンが多く含まれている。
鍋の口の広さによって温度上昇の仕方に違いがあり、口が狭いことが吹きこぼれの原因となる。

  しかし、吹きこぼれを防止する方法を発見していない。気泡を消失させる方法を考えていた時、祖母が醤油を入れ替えた時に表面にできた気泡を、箸に取った味噌を近づけ、ゆっくり動かしながら消していたことを思い出した。ここにヒントがあるのではないか。

研究の目的

(1)液体に生じた泡を消す方法を見つける。
(2)液体に生じた泡を消す作用がある物質を見つけ、それを溶かして吹きこぼれにくい煮汁を作る。
(3)温度上昇の仕方を変化させることで吹きこぼれを防止する方法を見つける。

《実験1》

どれだけ効率よく、味噌で醤油の泡が消えるのか。醤油を泡だてても、放置しておけば消える。わざわざ味噌で泡を消すのは、泡が速く消えるからではないか。

《方法》

200mlの醤油をミキサーで10秒間泡だて、素早くコップに移し替える。割りばしで味噌を取り、泡に近づけながらゆっくり動かし、泡が完全に消えるまでの時間を計る。

《結果と考察》

泡が消えるまで放置しておくと、初め高さ約12㎝だった泡が25分ほどで消えた。味噌を近づけると泡は2~3分で消え、とても有効だ。味噌の分量が5gだと平均166秒、10gで約120秒かかったが、著しい差はなかった。

《実験2》

味噌で醤油の泡が消えるのは、原料が同じだからか。

《方法》

泡だつ液体には、ほかに牛乳、果汁、ビールなどもある。牛乳の泡にチーズ、ビールの泡に麦ご飯、オレンジジュースの泡にオレンジを近づけた。

《結果》

いずれも泡は消えなかった。

《実験3》

味噌はいろいろな液体の泡を消せるのか。

《方法》

泡だった牛乳、ビール、オレンジジュースに味噌を近づけ、ゆっくり動かす。最初の泡の高さ、味噌を近づけてから3分後の高さを測った。

《結果と考察》

牛乳では9.0㎝の泡の高さが7.7㎝(-1.3㎝)となった。オレンジジュースは高さ13.0㎝の泡が10.4㎝(-2.6㎝)、ビールは23.0㎝が7.3㎝(-15.7㎝)となった。牛乳とオレンジジュースについては、あまり効率的ではなかったが、泡を消す効果はある。ビールが一番よく消え、5分後にはほとんどの泡が消えた。味噌そのものに、液体の表面にできた泡を消す効果がある。

《実験4》

味噌のどの成分が、泡を消す作用をもつのか。

《方法》

味噌の成分は水、大豆油、タンパク質、脂肪、塩、アルコール、デンプン、ブドウ糖だ。このうち前の実験などから、泡を消す可能性から除外できるのは水、タンパク質、アルコール、デンプンだ。そこで大豆油、脂肪としてのラード、飽和食塩水、ブドウ糖水溶液を各5g、脱脂綿に含ませたものを、泡だった醤油に近づけた。

《結果と考察》

飽和食塩水とブドウ糖水溶液には泡を消す効果がなかった。ラードでは、醤油の泡(高さ約12㎝)が1.5㎝ほど消えた。大豆油については、150秒ほどで泡が消えた。味噌の油成分のうち、動物性のもの(脂肪)より植物性のもの(大豆油)の方が、泡を消すのに効果的に働く。

《実験5》

味噌を加えた煮汁は吹きこぼれにくいか。

《方法》

味噌5gを水300mlにとかし、これまでの研究で最も吹きこぼれを起こしやすい素麺50gを茹でる。

《結果》

吹きこぼれてしまった。

《実験6》

大豆油を加えた煮汁は吹きこぼれにくいか。

《方法》

大豆油5gを水300mlに加え、素麺50gを茹でる。

《結果》

吹きこぼれてしまった。

《実験7》

マーガリンを加えた煮汁は吹きこぼれにくいか。マーガリンは植物油が主成分で、親水性に富み、水によく混ざる。

《方法》

マーガリン5gを300mlの水に加え、素麺50gを茹でる。

《結果》

4分後から泡が生じては、次々に消失した。吹きこぼれはなかった。

《実験8》

マーガリンの分量を変えて、吹きこぼれを抑える効果を調べる。

《方法》

マーガリン3g、1g、0.5g、0.1gを水300mlに加え、素麺50gを茹でる。

《結果と考察》

煮汁に加えるマーガリンはごく少量(0.1g)でも、吹きこぼれを防ぐことができた。

《実験9》

「マーガリン効果」は、素麺のほかにサトイモやラーメンでも現れるか。

《方法》

マーガリン5gを水300mlに入れ、サトイモ50g、ラーメン50gをそれぞれ茹でる。

《結果と考察》

いずれも吹きこぼれなかった。消えずに残る小さな泡の分量をみるとサトイモ、素麺、ラーメンの順に少なく、マーガリン効果はその順に高い。ラーメンには初めから油分が含まれていたので、消えにくい小さな泡の分量は多かったが、鍋の縁を越えてこぼれることはなかった。

《実験10》

鍋にアルミニウムを入れると、温度上昇の仕方が変わるか。これまでの研究で、吹きこぼれが起きる原因の一つに、煮汁の温度上昇が鈍った後に急激に上昇する現象があった。鍋の中央に熱伝導率の高いアルミニウムを立てれば、煮汁内の対流がスムーズになり、吹きこぼれを防止できるのではないかと考えた。

《方法》

細長く丸めたアルミ箔を、鍋の縁に渡した割りばしにはさんで立て、水300mlで素麺50gを茹でる。

《結果と考察》

吹きこぼれた。アルミニウムでは煮汁の温度上昇をスムーズにすることはできない。

《実験11》

鍋にガラスを入れておくと、温度上昇の仕方が変わるか。鍋(鉄)よりも熱伝導率の低いガラスを鍋底に沈めておけば、温度上昇を初めから鈍らせて急激な温度上昇の変化を抑え、吹きこぼれを防げるのではないか。

《方法》

鍋にビー玉250g分を入れ、水300mlで素麺50gを茹でる。

《結果》

温度上昇は緩やかになり、生じた泡が積り始めるまでの時間もかかったが、いったん泡がたまり出すと、一気に吹きこぼれた。

《実験12》

ガラス製の灰皿を鍋底に沈めておくと、吹きこぼれにくくなるか。ガラスの回りに触れる水の量がビー玉の時よりも増え、水温の上昇を鈍らせることができるのではないか。

《方法》

鍋底にガラス製の灰皿を伏せて沈めた。灰皿を用いるのは、たばこを置く溝によって閉ざされた空間ができず、対流が起きるようにするためだ。水300mlで素麺50gを茹でる。

《結果と考察》

消えにくいたくさんの小さな気泡が生じたが、絶妙なところで、泡のたまり方が止まり、吹きこぼれなかった。

研究のまとめ

(1) 「醤油の泡を消す」と伝承されてきた味噌には、牛乳やオレンジジュース、ビールの泡を消す効果もある。「液体に生じた小さな泡を味噌で消す」とも言える。大豆油がその役割を果たしていることも分かった。
(2) マーガリンを混ぜると、吹きこぼれにくい煮汁を作ることができる。マーガリンの成分には「乳化剤」という界面活性剤が含まれ、食品が生成される時に生じる泡だちを抑制するために加えられているという。この乳化剤も煮汁の泡を消す働きをしているのかもしれない。
(3) ガラス製の灰皿を鍋底に沈めると、煮汁の温度上昇が緩やかになり、さらに温められた煮汁が対流し、吹きこぼれを防止することができる。

指導について

指導について廣瀬孝久

 「サトイモをゆでるときにはふきこぼれるのに、トウモロコシをゆでるときにはふきこぼれない」そんな日常の事象に疑問をもって、一年生の時からこの研究に取り組み始めました。一年目は、仮説を立てた後、どうしたらその仮説を立証できるか、実験方法を考えるだけで何週間も時間をかけていました。研究を続けていくうちに、慣れてきたのか、今年は12の実験を実施し、ふきこぼれを防止する方法を、本人なりにつきとめるに至りました。
  慣れてきたとはいえ、予想していたことと異なる結果が出ると研究がストップしたり、今までより実験が多く、筋道を立てて論文にするのに四苦八苦したりしていました。あきらめずに研究作品にまとめるに至ったのは、授業や夏休み中の理科研究生の活動で、先生方に適切なご指導をいただいたおかげです。
  また、本コンクールでの入賞も大きな励みとなってきました。科学研究に興味をもつきっかけをいただいたことに感謝しております。

審査評

審査評[審査員] 加藤惠己

 一昨年度の秋山仁特別賞、昨年度の2等賞に続いて、今年度は継続研究奨励賞と、3年連続の受賞おめでとうございます。
 これまでの研究で、ふきこぼれやすいものの特徴とその成分について調べ、今回はふきこぼれを防ぐ方法を追究しました。そのために、細かい気泡を効率よく消し、温度を、特に沸騰直前に緩やかに上昇させる条件を検討しています。前者については植物性の油を添加すること、後者についてはガラスなどの熱伝導率の低いものを鍋の中に入れることが有効であることを見出しました。
 3年間にわたってこれだけの研究を継続できたのは、目的意識が鮮明であること、仮説をしっかりと立てて問題点を明確にしながら作業を進めているということによるものと思います。この間に培われた力は今後いろいろな場面で役に立つことでしょう。将来おおいに「ふきこぼれ」てください。

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