第50回入賞作品 中学校の部
2等賞

台所の科学!ふきこぼれの原因究明 vol.2

2等賞

茨城県龍ケ崎市立愛宕中学校 2年
廣瀬 潤
  • 茨城県龍ケ崎市立愛宕中学校 2年
    廣瀬 潤
  • 第50回入賞作品
    中学校の部
    2等賞

    2等賞

研究の動機

 台所で里芋の煮物がふきこぼれた。山盛りのトウモロコシは、鍋でゆでてもふきこぼれなかった。どんな時にふきこぼれるのか。昨年の研究ではふきこぼれやすさと煮汁の色、透明度に相関関係はない。ふきこぼれやすい材料の煮汁は、泡が消えにくい。ふきこぼれやすいものは、煮ている材料そのものからも細かい泡が出ている。ふきこぼれやすいものは温度上昇の速度が遅く、泡がはじける前に次の泡ができてしまう――ことが分かった。今年は煮汁の粘性、細かい泡が出る原因などについて研究する。

仮説1:細かい泡の原因は、煮る材料の細胞にすき間のようなものが存在し、沸騰によって気泡が生じやすい構造をしているためではないか。

《実験1》

材料の細胞を観察する。

〈方法〉

ふきこぼれやすいサトイモとラーメン、そうめん、ふきこぼれにくいダイコンとニンジン、トウモロコシを各50g、水300mlでゆで、沸騰して3分後に火を止める。各材料を薄く切って、顕微鏡で観察する。

〈結果〉

材料の細胞にすき間がなかった。しかし沸騰後、ふきこぼれにくい材料の細胞では、多少大きさが変化したものの、細胞同士のつながりの様子に違いはなかった。これに対し、ふきこぼれやすい材料では、細胞と細胞のつながりがとてももろくなっていて、少しの衝撃でもバラバラになるような状態だった。

〈考察〉

加熱することによって細胞同士のつながりがもろくなり、すき間ができやすくなることが、ふきこぼれの原因である。

仮説2:沸騰によって生じた気泡が消えにくいのは、煮汁の粘り気が強いからではないか。

《実験2》

煮汁の粘り気を測定する。

〈方法〉

塩化ビニール管(長さ1m、内径5・と7・の2種類)を立て、中に煮汁を高さ2・注ぐ。それを逆さにして、煮汁が管の中を通り抜ける時間を計る。

〈結果〉

ふきこぼれにくいダイコン、ニンジン、トウモロコシの煮汁は、太い管、細い管ともスムーズに短時間で通過した。ふきこぼれやすいサトイモ、ラーメン、そうめんの煮汁はゆっくりと通過し、とくにそうめんの煮汁は細い管を通過するのに1分以上かかった。ラーメンの煮汁には油分が1/3ほど含まれていて、細い管を通過するのに時間がかかったため、途中で油分と水分が分離してしまった。

〈考察〉

ふきこぼれやすいものの煮汁は、粘り気が強い。

仮説3:煮汁の粘り気の原因は、材料から流出するデンプンにあり、その量が多いほどふきこぼれやすいのではないか。

《実験3》

煮汁に含まれるデンプンの量を調べる。

(A)デンプンの量をヨウ素反応の色で比べられるか確認する。

〈方法〉

500mlの水に0.1gの可溶性デンプンを加え、0.02%のデンプン液を作る。同様に0.04%、0.06%、0.08%、0.1%のデンプン液を作る。それぞれに薄いヨウ素液を3滴加え、反応の色を確認する。

〈結果〉

思ったよりもはっきりと色の差が出た。

(B)煮汁のヨウ素反応の色を調べることで、デンプンの量を調べる。

〈方法〉

煮汁5mlにヨウ素液3滴を加え、写真を撮る。Aの結果と比べ、デンプンの量を予測する。ダイコンとニンジンの煮汁では反応はなかった。トウモロコシでは、最小の0.02%の値と同じ色を示した。ふきこぼれやすい材料のうちサトイモ、そうめんでは明らかにヨウ素液が反応を示した。それに比べ、ラーメンでは煮汁に含まれるデンプンは少なかった。

〈考察〉

ふきこぼれやすいものの煮汁には、デンプンが多く含まれている。

仮説4:煮汁の温度上昇が途中で鈍る原因は、煮汁の温度上昇が初めから急激すぎることにあるのではないか。

 昨年の研究で、ふきこぼれやすい煮汁の温度は、80℃を超えたあたりで一旦、急激に上昇率が鈍ることが分かった。このため、80℃前までは気泡が生じては破裂して消えていたが、その後は、気泡が生じても、破裂できないまま次の気泡が生じてしまうという現象が起きるのだ。ゆっくり温度が上昇すれば、気泡の発生と消滅が保たれる。そこで、鍋の口が広ければ外気に触れる面積が広くなり、温度の上昇が緩やかになると考えた。

《実験4》

鍋による温度上昇の違いを調べる。

〈方法〉

5種類の鍋:片手鍋(直径17cm、深さ8cm)片手鍋(18cm、9cm)ミルクパン(14cm、6.5cm)浅型鍋(15cm、6cm)丼用鍋(17cm、3.3cm)。各鍋に水300mlを入れ、30秒ごとの温度を測定し、気泡の様子を観察する。そうめんをゆでて、同様に調べる。

〈結果〉

直径17cm以上の鍋では、温度上昇の仕方がゆるやかな傾向があった。片手鍋と丼用鍋では、100℃に達する前に、温度の上がり方が鈍った。丼用鍋では、100℃に達しないで、94℃をすぎたあたりで平衡状態を保っていた。そうめんは、片手鍋と丼用鍋では泡立つものの、ふきこぼれはなかった。その他の鍋では、時間の長短はあったが、ふきこぼれた。

〈考察〉

鍋の口の広さによって温度上昇の仕方に違いがあり、口が狭いことがふきこぼれの原因となる。
  直径が17cm以上の鍋でふきこぼれたのは片手鍋だった。90℃までは緩やかに温度が上昇したが、その後一気に100℃に達するような温度変化をしていた。新しい片手鍋と丼用鍋に比べ、片手鍋は古くから使っているものなので、温度の伝わり方に偏りがあるのではないか。口が広いことと、ふきこぼれにくさとには、温度の伝わり方や材質も関係がありそうだ。

今後の課題
沸騰中に出現する、破裂しにくい細かい気泡を、効率よく消す方法を見つけたい。
煮汁の粘り気を弱める方法を発見したい。
鍋の口の広さ、深さ、材質などの実験条件をそろえて、ふきこぼれない鍋の口の広さを調べたい。
指導について

指導について龍ケ崎市立愛宕中学校 新蔵厚志

 廣瀬さんは、将来科学者になりたいという希望があり、生活の中の何でもないようなことに対しても疑問を持ち追究していこうとする姿が見られます。
  昨年度、台所で里芋を煮ていたときにふきこぼれた体験から、なぜふきこぼれたのかの原因を科学的に突き止めようとする本研究を始めました。今年度は、昨年度の課題からふきこぼれの原因をデンプンの量と考え、その検出のため様々な実験を繰り返しました。濃度の差をどのようにして検出するのか、何度も何度も予備実験を繰り返しデータを得ることができました。実験に行き詰まった時もあきらめず、様々な方法を試してやり続ける姿に他の研究をしていた生徒も感化されるほどでした。
  保護者の方々の協力もあり本研究を完成させることができました。今後もさらに興味の範囲を広げていって、科学への道を邁進していってほしいと思います。

審査評

審査評[審査員] 佐倉 統

 台所まわりは科学的現象の宝庫ですが、料理の過程などを実際に科学的に説明しようとすると、結構難しいものです。それは、非常に複雑な現象だからです。たくさんの要因が絡み合っているのでそもそも解明しにくいし、実験で制御するのも大変です。あれこれ実験しても、何がなんだか分からないという結果になりがち。ふきこぼれも、そういった複雑な対象のひとつなのですが、廣瀬君はとても上手に整理された一連の実験を考案しました。それがうまくいった理由のひとつは、昨年度の研究結果をふまえて、仮説を4つにしぼっていることです。素材の細胞の形や大きさとの関係、粘性が影響しているのではないか、などなど。科学実験の成功のカギは、適切な仮説を立てることができるかどうかにあります。良い答を得るには、良い質問が必要なのです。この点で、廣瀬君の仮説の立て方は、とてもうまい。センスが光っています。粘性の測定も、工夫が感じられます。

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