1年生の夏休みに、道路で弱っていたカナヘビを家に連れ帰り、世話をしたのがきっかけで、自由研究を始めました。1年生の時はカナヘビの体の仕組みやえさの食べ方、1日の暮らしを調べました。2年生の時はカナヘビの交尾、赤ちゃんの生まれてくる様子、1年の様子を調べました。3年生の時はトカゲについて、体の仕組みや生活の様子、交尾、生まれてくる様子などを調べ、カナヘビと比較しました。4年生の時は、トカゲとカナヘビの違いを、もっと深く見つけようと研究しました。5年生では発表はできませんでしたが、観察は続けました。今年はトカゲとカナヘビの知能、行動について詳しく調べ、さらに6年間の観察の結果をまとめました。
(1)トカゲは巣の中で卵を守る。その巣の中にカナヘビの卵を入れた時のトカゲの行動を観察する。
(2)トカゲとカナヘビは姿形が似ているので、一緒に飼育することで求愛行動をするか(あるいはハーフができるか)観察する。
(3)トカゲとカナヘビの学習能力(①飼育下での学習②実験での学習)について調べる。
(1)トカゲは卵を守ったり、子育てをすることが分かっているので、自分の巣の中にほかの生物の卵が入っていたらすぐに分かって、その卵を巣から出してしまうと思う。
(2)動物はすべて子孫を残す本能を持っているので、トカゲやカナヘビも、オス、メスがいなければ、互いに交尾や求愛行動をすると思う。
(3)トカゲは卵を守ったり、子育てしたりして頭がいいので、学習能力はあるが、カナヘビはないと思う。あるいは、どちらも学習能力はないかもしれない。
トカゲの巣の中に卵が4個入っている。そこにカナヘビの卵を1個入れた。少したつと、トカゲのメスが卵を運び出しているのが分かった。4個運び終えると隠れてしまった。巣の中には卵が1個だけあった。よく見るとカナヘビの卵だった。トカゲは別の場所に巣を作り、そこに自分の卵を運んでいったのだ。
《考えたこと》
トカゲにしてみれば、自分の巣の中にほかの動物が入り、卵を置いていったということになる。自分の卵を少しでも安全な場所に置くためには、別な場所に自分の卵を移すことが、より危険をなくす方法だ。
トカゲとカナヘビの間で求愛行動、交尾をするか?
1つの水槽にカナヘビのメス2匹、トカゲのオス2匹を入れた。観察した時にトカゲとカナヘビがどの場所にいるかを、日記につけた。観察期間は、繁殖時期の4~6月の3カ月間に決めた。
1つの水槽にカナヘビのメス2匹、トカゲのオス2匹を入れた。観察した時にトカゲとカナヘビがどの場所にいるかを、日記につけた。観察期間は、繁殖時期の4~6月の3カ月間に決めた。
カナヘビととかげがいた場所
《結果》
図の様な結果になった。カナヘビは2匹とも大きい隠れ家の回りで行動していることが多く、トカゲは小さい隠れ家の回りで行動していた。繁殖時期をむかえてトカゲの首が赤くなると、オスの2匹はけんかが激しくなり、ペロペロと舌を出して歩き回る(メスを探している)ようになったが、カナヘビのメスはトカゲが出ている時には、出て来なくなった。6月に入ると、トカゲが出ている時にカナヘビも出て来るようになったが、トカゲはカナヘビに近づかなかった。姿形が似ていても、求愛行動や交尾はしないことが分かった。
エサをやる時に、トカゲは早く出て来るようになった。条件反射があるのかどうかを調べるために、エサをやる前にフタをたたくことを続けた。2カ月ぐらいたつと、たたいただけで出て来るようになった。このことからトカゲにも条件反射はある。カナヘビはエサをやる前から出ているので、条件反射は確認できない。
エサのバッタを入れると、バッタはいつもフタの所にくっついているので、トカゲは取れなくてじっと上を見ている。そこでフタに届くように小さな木を入れてみたら、トカゲは木を登りエサを取るようになった。このことからトカゲに知能があることが分かった。
トカゲは、人の手から虫をもらって食べるか実験してみた。最初は逃げていたけれど、だんだん逃げなくなり、手で持っている虫をペロペロなめて食べた。それからは慣れたのか、平気で食べるようになった。カナヘビは何回やっても、手からは食べなかった。
トカゲとカナヘビを箱に入れ、そこから脱出する出口がふさがれていることを学習する能力があるのか、さらに出口の色、形を見分ける能力があるのかを実験で観察する。
① | ダンボール箱に2つの形の異なる出口を作り、片方を透明なプラスチックでふさぐ。 |
② | トカゲ、カナヘビをそれぞれ箱の中に入れ、出口から脱出するまでの時間を計る。さらに、プラスチックでふさがれた出口にぶつかるかどうかをくり返し観察する。 |
③ | 出口の形は三角形と四角形、色は赤と緑の計4種類。出口の方角も変える。 |
(1)カナヘビの場合
〈実験1〉
東に四角形(色は赤)の本物の出口、西に透明プラスチックでふさいだ三角形(緑)のニセ出口を作り、くり返し実験すると、7回目から迷うことなく本物の出口から出るようになった。学習能力はある。
〈実験2〉
出口の色、形はそのままに、箱を180°回転させて出口の方角だけを変えたところ、ニセ出口に向かうことが分かった。13~15回目までに出口を学習したようだ。出口を色、形ではなく方角で見ている。
〈実験3〉
本物出口を東に、色は赤のまま、形だけをニセ出口と同じ三角形に変えた。その結果、8回目ぐらいから学習したようだ(12回目には一度ニセ出口にぶつかっているが、これはカナヘビを動かすために与えた刺激のためだと思う)。これまでの本物出口の赤、ニセ出口の緑を見て理解しているわけではなさそうだ。色で判別はしていない。
〈実験4〉
本物出口(三角形)を西に変え、色は本物、ニセ出口(四角形、東)とも緑にした。その結果、3回くらいまではニセ出口(東)に行くが、4~10回目はスムーズに本物出口に向かった。これまでの実験では学習のスピードが6~12回だったが、それよりも速く本物の出口を学習した。しかし前の実験で使っていた形(三角形)を覚えていた可能性もある。
〈実験5〉
形を覚えているのか確認するため、出口の方角を90°変え、本物の出口(三角形)を南にセットしたところ、最初の一発で本物出口を見つけ、ニセ出口にぶつかることはなかった(5回実験)。このことから形を理解しており、出口の情報として学習し、記憶している。
〈実験6〉
さらに箱を180°回転させ、本物の出口(三角形)を北にすると、2回目にニセ出口(南)にぶつかったが、その後は本物出口からスムーズに脱出した。方角をまず見ていることが分かった。
〈まとめ〉
カナヘビはニセの出口を認識して、本物の出口を学習する能力がある。出口の認識は、方角で記憶している。また出口の形を認識、記憶できる。色で認識はしていない。出口の認識、学習は方角→形の順で行っている。
(2)トカゲの場合
〈実験1〉
西に本物の出口(三角形、緑)、東にニセ出口(四角形、赤)を作った。1回目にニセ出口にぶつかったが、本物の出口を見つけた後はスムーズに本物出口から脱出した。しかし、トカゲは箱の中で落ち着いてしまい、出口になかなか移動しなくなり、回数が増えると箱に慣れて、じっとしてしまった。
〈実験2〉
別のトカゲでもう一度、1と同じ実験をした。2回目にニセ出口にぶつかったが、それ以降は確実に一発で本物出口から脱出することを確認できた。
〈実験3〉
箱を180°回転させ、出口の方角を入れ換えた。1回目にしつこくニセ出口(元の本物出口の位置)から脱出しようとしていたが、本物の出口を見つけると、2回目以降は一発で本物出口から出られるようになった。このことから、トカゲもまずは方角で出口を学習し、記憶することが確認できた。また、学習能力はカナヘビよりも数段高く、一度ニセ出口が分かると、次はしっかりと本物出口から脱出することが観察できた。
〈実験4〉
次に色による認識について調べるため、本物出口とニセ出口の色だけを入れ換えたが、方角と形は前回の実験と同じだったので、最初から本物出口から脱出した。その後、このトカゲも箱の中で落ち着いてしまったため、実験は続けられなかった。
〈まとめ〉
トカゲも方角で出口を見分け、学習することが分かった。学習能力はカナヘビよりも高く、頭がいい。形を見分ける実験はできなかった。
《学習能力実験のまとめ》
・トカゲもカナヘビも正しい出口を見分け、学習する能力を持っている。
・正しい出口の判断は方角で行う。
・形も学習し、見分けることができる(トカゲでは実験できていない)。
・学習能力はトカゲの方が高い。トカゲは自分の巣穴を掘って、行動することから、位置に関係する学習能力はカナヘビより高いことが分かる。
《生息場所とよく見かける場所》
カナヘビもトカゲ(ニホントカゲ)も日本全土に分布している。特に本州での確認が多い。カナヘビ:家の庭や垣根、道路などで見かけることが多い。トカゲ:林のそばや林のそばの畑でよく見かける。庭などでも見かけることはあるが、ごくわずか。
《体の仕組み》
カナヘビ:生まれた時から、大人になっても、体の色は変わらない。幼体は頭でっかちで、皮膚は柔らかい。成体になると皮膚はカサカサに見える。まぶたは下側にある(「下まぶた」という)。指は5本あって細く、1本だけとても長くなっている。指の先には小さいカギヅメがついている。おなかはザラザラしていて、黄色っぽくなっている。おなかには大きいウロコがきれいに並んでいる。観察スコープで詳しく見ると、カナヘビのウロコは大きさや形も違い、1枚ずつ浮き上がっているようだ。しっぽのつけ根のウロコが変わっているところが肛門になっている。肛門から出る赤いものが、生殖器だ。
《しっぽ》
カナヘビは、敵におそわれた時に、自分からしっぽを切って逃げる。切れた尾はしばらくの間、くねくねと動いている。切れた尾に注意を引きつけておいて、逃げるのだ。このように尾を切ることを「自切」という。幼体ほど尾が切れやすく、成体になるほど切れにくくなる。尾が切れて1週間後に切り口から、ウロコがなく黒っぽいものが突き出てきた。2週間後、黒いものがだんだんとがって来て、短いしっぽのようになったが、ウロコがないので変な感じだ。その後、黒い部分はだんだん長くなり、黒かった所も茶色になってしっぽが再生した。切れた所は少しふくらんでいて、切れた跡が分かる。
トカゲ:成長と共に体の色が変化する。幼体は体全体が黒く、3本の金色のしまがあり、尾は青色をしている。成体のメスは幼体のころのように少し黒っぽいが、オスは茶褐色をしている。指は5本あり細長く、指の先には小さなカギヅメがついている。ウロコはなめらかで光沢があり、ツルツルしているように見える。観察スコープで見ると、同じ形のウロコがきれいに並んでいる。おなかは白く、同じ形のウロコが並んでいてツルツルしている。オスは繁殖期になると、あごから首にかけてオレンジ色になる。トカゲも敵におそわれたりすると、自切をして逃げる。トカゲをつかまえようとした時に一度自切をして、しっぽの付け根をつかんだら、もう一度自切したことがあった。
《脱皮》
トカゲもカナヘビも、成長する時には脱皮をして大きくなる。脱皮した皮は、カナヘビはまとまっているが、トカゲのはボロボロになる。
《飼育方法》
カナヘビ:大き目の水槽がいい。底に乾いた砂、土を敷く。湿った土などを使うと、皮ふ病にかかりやすくなる。水入れと隠れ家、日なたぼっこ用の石などを入れる。
トカゲ:大き目の水槽に、湿った土を敷いて、その上に枯れ葉などを敷き詰める。トカゲは土の中にもぐるので、土の量は多めに、固めないように気をつける。水入れと隠れ家も入れる。
《エサの取り方・食べ方》
カナヘビ:走るのがとても速い。小さなイナゴ、コオロギなど、動く虫がいればすぐに駆けつけて、かぶりつく。カマキリには、すぐにおなかにかみついて、何回も振り回し、動かなくなると、頭から飲み込むようにして食べた。ショウリョウバッタには、最初におなかにかみついて振り回した後、動かなくなると、長い足を1本ずつかみちぎって食べていった。ショウリョウバッタが1本の棒のようになると、少しずつ体をゆすりながら、飲み込むように食べた。オニグモには、動くとすばやく飛びついた。暴れるのでしっかりくわえ、植木鉢にたたきつけたり、こすったりして、動かなくなると、ゆっくり少しずつ飲み込むようにして食べた。大きい虫も食べられる。
トカゲ:外に出ていることが少ない。昼間でも芝生の中に隠れ、モグラのように土の中にもぐったりする。エサの虫を入れると、芝生のすき間から外の様子を見ながら虫が近づくのを待ち、すばやく出て来てつかまえ、芝生の中に戻って行った。大きい虫を入れると、水入れの下からキョロキョロと見回し、虫を探していた。虫が近づくと、すばやく出てきてつかまえた。今度は芝生に隠れず、虫を振り回した後、頭からゆっくり飲み込むように食べた。途中には、体を大きくくねらせながら飲み込んで行った。まるでヘビのようだった。
《まとめ》
トカゲ、カナヘビはどちらも11月~2月の間は冬眠し、3月ごろから行動をはじめる。
トカゲは4~5月に交尾し、1カ月後くらいに2~8個の卵を産む。カナヘビは4~7月に交尾し、1カ月後くらいに4~6個の卵を3カ所に分けて産む。
どちらも7~8月にかけてふ化し、生まれたばかりの幼体は長さが6~7㎝、重さは200~300㎎だ。成長の早いものは、30日で体重が3倍に増える。冬眠をする時期には成体と同じくらいの大きさになり、長さは約3倍(16~19㎝)、重さは約15倍(3.5~5g)になる。1年後には交尾をし、卵を産むことができる。
トカゲとカナヘビの生活での大きな違いは、トカゲは土の中に巣を作り、その巣を中心にした生活をしていることだ。産卵、子育ても巣の中で行い、オスはメスを守るために巣の周りに縄張りを作る。また土の中で生活しやすいように、体の表面はツルツルしたウロコでおおわれている。一方、カナヘビは土の中に巣を作らず、枯れ葉の下などを中心に生活している。産卵も枯れ葉の下に3カ所くらいに分けて行い、子育てはしない。また、縄張りも作らない。飼育する場合も、こうした生活にあった環境を作ってやる必要(トカゲには巣を作る土が必要)がある。
トカゲ、カナヘビとも高度な知能を持っている。とくにトカゲは自分の卵を守るための行動や、エサをやる時の条件反射などのように、カナヘビよりも高い知能を持っている。学習能力はどちらも持っているが、トカゲの方がレベルは高い。
これまでのトカゲ、カナヘビの観察により、次のように特徴を表すことができる。
トカゲは冷静、沈着、知的な慎重派!
カナヘビは大胆不敵、平和主義の行動派!
審査評[審査員] 高家 博成
黒田君は1年生のときからトカゲやカナヘビの飼育観察を続けてきました。今回はそのすべての6作品が届けられました。動物を何年にもわたって飼育し観察を続けることは、専門家でも容易ではありません。審査員一同、皆が感心していました。興味深いのは、求愛行動、産卵習性、孵化、成長などが、みごとな写真とともに、記録されていることです。卵から顔を出している子供の写真、求愛行動の写真などはよくとらえました。トカゲの生活から恐竜の生活を想像するのは楽しいですね。
指導について黒田智子
ある日、弱っていたとかげを連れて帰り、世話をしたことがキッカケで自由研究を始めました。その時、3つの約束をしました。
①命を大切にすること(毎日エサ取りをする)
②途中で投げ出さないこと
③毎日、観察すること(記録、写真を撮る)
息子の一生懸命な姿を見て、私にも出来ることはないかと思い、毎日一緒に虫取りに行き、一緒に観察して、疑問があると話し合い、インターネットやあちこちの図書館に調べに行きながら、6年間観察を続けることが出来ました。毎日虫取りに行くと近所の人が声をかけてくれ、とかげの居場所を教えてくれるようになり、捕まえてきてくれたり、農家の人は、畑で虫取りをさせてくれました。先生方は、毎年作品が出来上がるのを楽しみにしてくれて、息子が頑張れるように温かく見守り、声をかけてくれました。地域の方々、先生方の協力・応援でここまで頑張ることが出来たと、深く感謝しています。