東京都小金井市立南中学校

2005年
取材

本物の昆虫とじっくり付き合って ?先輩から後輩へと継続してコツコツ研究を積み重ねる?

 

じっくりと観察を積み重ねた作品

テレビやゲームの「ムシキング」が大ヒットしているように、現代っ子も虫が大好きという子は多い。しかし、中学生ともなると、まして都会では本物の虫に触れるチャンスはぐんと少なくなる。第45回自然科学観察コンクールで3等賞(中学校の部)を受賞した『小金井昆虫図鑑1 ~240種の昆虫たち~』は、3年間じっくり昆虫と向き合い、観察データをまとめた労作だ。指導した中村江里子先生を小金井市立南中学校に訪ねた。
正面玄関を入ってすぐの廊下には、自然科学クラブの表彰状が何枚も掲げられている。その中で最も新しいのが、今回受賞したものだ。同クラブは、中村先生が赴任すると同時に創設された。スタート時の部員は3人だった。ちなみに文化系のクラブにはほかに吹奏楽部、茶道部、囲碁将棋部、美術部などがある。
 

小金井市立南中学校の正面入口

クラブ活動は授業と塾のすきま時間で

都市部の中学校の例にもれず、同校でもほとんどの生徒が塾や習い事に通っている。クラブ活動は授業と塾通いの合間をぬって行われる。そんな限られた時間の中でも、継続的な研究が続けられることを今回の作品は証明してくれた。
南中学校の近くには、武蔵野台地の湧き水を水源とする野川が流れている。同クラブは発足時から、野川の水質や周辺の生物の調査、市内の大気汚染などを継続的に調べていたが、渇水して川の水が流れなくなった時、やむなく中断することになった。その時、「ぜひ昆虫をやってみたい」という声が部員からあがり、「小金井の自然環境は本当に豊かなのか、昆虫を通して考える」という調査が2002年からスタートすることになった。
 

学校のグラウンドは広い。
周囲には武蔵野の緑が残り、
住宅地の中に果樹園や畑も点在している

生徒と一緒に模索しながら共同研究

小金井周辺や野川にはどんな昆虫がどれくらいいるのか。中村先生は「調査地点を決めてやった方がいいよ」「季節ごとに集めた方がいいよ」などのアドバイスはしたが、基本的には自由にのびのびと調査が進むように見守る役に徹した。「私は昆虫が専門というわけではないので、指導というより共同研究ですね。一緒に模索しながらやってきました」
観察場所として定めたのは、野川沿いの原っぱや親水公園など6ポイント。まずはデータを集めることに力を注ぎ、夏休みを中心に、毎月のように調査に出かけて昆虫を集めた。最初の年はのべ8日、次の年からは15~16日は屋外で昆虫を採集した。中村先生自身も同行して写真撮影を担当、見つけた昆虫をカメラで接写した。

顕微鏡を専門の図鑑を駆使してコツコツを

図鑑を7~8冊持って行っても、採集したその場ですぐに判別がつくのは10に1つということもある。同定(種類を決めること)できたものは写真を撮って記録を残して、その場で逃がす。わからないものは持ち帰って理科室の冷蔵庫に保管、後からひとつずつ調べている。
「アリの図鑑、カメムシの図鑑、ガの図鑑……、少しずつ図鑑をそろえていったので、最初はお手あげだったジャンルもだんだん調べることができるようになりました。最初はアリには誰も関心がなかったのに、アリ専門の図鑑を見てさまざまな種類があることに気付いてがぜん面白くなった、といったこともありました」
ふだんの部活の時間には、双眼実体顕微鏡と図鑑を首っ引きでコツコツやっている。手分けして調べるうちに、部員それぞれに得意ジャンルができてきた。図鑑には、何十種類もの同じような昆虫が何ページにもわたって載っている。その中から微妙な違いに目を凝らして、目の前のひとつを特定していく。その手ごたえは何にも代えがたい。
 

正面玄関近くに掲示されている
自然科学クラブの調査結果

記録シートは手書きを基本に

種類が特定できた昆虫は、A4サイズのシートに記録する。見つけた場所の地図、昆虫の写真、特徴などのコメントをつける。昆虫のスケッチは絵の得意な部員が担当した。この3年間で採集した昆虫は1000を超え、その中から同定できた240種をシートに記録した。
昆虫一覧データはエクセルを使って生徒が打ち込んでいるが、それ以外の部分にパソコンは使用せず、記録は手書きが基本。また、標本も作らない。標本作りやパソコン操作で余分な負担が増えることのないようにという配慮からだ。
 

1枚ずつコツコツ作った
記録シート

蓼科の移動教室で自然を観察

理科の自由研究を夏休みの宿題として出すことはしていない。理科の授業のカリキュラム以外で自然に触れるチャンスとしては総合学習の時間があり、2年生のテーマは「環境」。その一環として、6月下旬~7月には蓼科高原への移動教室を実施、今回初めて現地の自然科学の専門家と合同のプログラムを組んだ。生徒の希望に応じて「昆虫」「野鳥」「野生動物」「気象」「地質」の5つのグループにわかれ、それぞれの活動を行う予定だ。
理科の授業の中では、その場でレポートにまとめるよう指示している。授業の最後に時間をとり、実験の結果を短いレポートにまとめて提出させている。レポートはチェックして次の時間に返却している。

研究を通じて市民団体やNPO団体とも交流

これまでも、中村先生は自然科学観察コンクールに何度か応募している。前々回の第43回では、同クラブの生徒による『学校周辺に昆虫はいるのか』が最終選考まで残った。今回の3等賞の受賞は、体育館での朝礼時に全校生徒の前で報告され、部員全員が舞台に上がり、部長が校長先生から表彰状を受け取った。「皆、狂喜乱舞していました。賞品の双眼鏡にも大感激していましたね」
  昆虫の調査を継続して行っていることが次第に知られるようになり、小金井市内で昆虫を研究している市民の団体やNPO団体から連絡が入るようになった。今後は学校外の人たちとも昆虫を通して交流をはかれるようになるかもしれないと、中村先生は期待を膨らませている。

先輩から後輩へ受け継がれるデータ

今年度、自然科学クラブは新入部員1人を迎え、女子4人、男子3人の総勢7人になった。
中村先生は、「部員は今年もやる気いっぱいです。これからも昆虫のデータを充実させ、集めたデータをもとに、年ごとの変化・季節の変化・地域による違いなどの考察を重ねていきたい」と語る。
  昨年秋にコンクールに応募した時は240種だったデータはさらに増え、取材時点(2005年6月)では300種に達していた。
ひとりよりチームで。そして、継続は力なり。先輩から後輩へバトンタッチされていく貴重なデータは、環境を計るものさしとして、自然科学クラブの、そして学校の財産になるに違いない。
 

理科室は自然科学クラブの活動の舞台だ

学校プロフィール

学校プロフィール

東京都小金井市立南中学校
ホームページ
〒184-0014 東京都小金井市貫井南町1-26-1
電話042-383-1105
児童数=354人 1年・2年=3クラス、3年=4クラス
中村江里子

中村江里子先生
2年生担任
理科担当
自然科学クラブ顧問

東京の西部に位置する小金井市は、武蔵野の緑豊かな文教都市として知られている。人口は約11万人。豊富な地下水が湧出し、東京の名湧水57カ所のうち市内で3カ所が選定されている。南中学校の近くを流れる野川は、台地の崖からの湧き水を集めて流れる清流で生き物の宝庫でもある。校章はケヤキの若葉をモチーフにデザインされ、武蔵野台地に根をはり高くまっすぐに伸びるケヤキに、生徒もかくあれという願いを託している。

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