第56回入賞作品 小学校の部
2等賞

コロコロ転がる「水滴」の研究

2等賞

愛知県刈谷市立住吉小学校理科部 6年
植平朋花・加藤颯人・北原若奈・鈴木凪沙
  • 愛知県刈谷市立住吉小学校理科部 6年
    植平朋花・加藤颯人・北原若奈・鈴木凪沙
  • 第56回入賞作品
    小学校の部
    2等賞

    2等賞

研究の動機

 家庭科の調理で使ったフライパンを乾かそうとコンロで加熱していたら、そこに手についた水滴が落ちました。水滴はすぐに蒸発せず、熱いフライパンの上でコロコロ転がっていたのです。とても不思議に思い、研究することにしました。

《追究1》水滴が転がり始める温度

【実験】ホットプレートの上で水滴が転がり始める温度を、放射温度計を使って調べる。

〈方法〉

 プレートの温度を100℃から10℃ずつ上げ、水滴が転がるかどうか、10回ずつ調べた。

〈結果〉

 水滴は160℃を超えると転がり始め、190℃以上ではすべての水滴が転がった。

〈発見1〉

 垂らした時の水滴の様子で、フライパンの温度がある程度分かる。温度によって水滴の中の気泡の大きさ、表面の様子が違う。

〈発見2〉

 プレートの同じ場所で水滴実験を繰り返すと、だんだん転がりにくくなる。そのため私たちは、1回ごとに場所を変えて実験した。

《まとめ》

 水滴は160℃を超えると転がり始め、190℃以上は100%転がる。

《追究2》水以外の液体も転がるのか

【実験】砂糖水、食塩水、炭酸水、穀物酢、食用油について、100%転がる温度を調べる。

〈結果〉

 炭酸水が最も低く180℃。水190℃、食塩水200℃、砂糖水・穀物酢220℃。食用油はさらに温度を上げても転がらなかった。

《まとめ》

 水以外の液体も転がる。しかし、液体によって転がる温度は違う。

《追究3》なぜ水滴がコロコロ転がるのか

【実験1】転がっている水滴を拡大して観察する。

〈方法〉

 加熱したステンレス板に水滴をたらし、真横からVTRカメラでスロー撮影した。

〈結果〉

 ステンレス板の上に浮かぶ小さな水滴を発見した。より大きな水滴も浮かんでいるかもしれない。しかし、浮かんでいるなら、蒸発に時間がかかるはずだ。

【実験2】温度を変化させて、水滴の蒸発時間を調べる。

〈方法〉

 電熱器でステンレス皿を加熱し、ピペットで水滴を1滴垂らした。加熱温度は140℃から10℃ずつ300℃まで変えて、水滴が蒸発して消えるまでの時間を測った。

〈結果〉

 蒸発時間は、140℃から160℃まで短くなり(約120秒→約20秒)、その後200℃(約55秒)まで長くなり、さらに300℃(約15秒)まで再び短くなった。蒸発時間が遅く(長く)なる160~200℃は、追究1の実験結果「水滴が転がり始める温度」と一致した。蒸発時間が遅くなるのは、水滴が熱い皿に接しないで浮いているからだ。浮く原因は「蒸発する水の力」と考えられる。

《まとめ》

 水滴は蒸発する力でわずかながら浮き上がっている。その結果、摩さつが小さくなりコロコロ転がる。

《追究4》なぜ、同じ場所で水滴実験をすると、だんだん転がりにくくなるのか

 「蒸発によって水滴の中の物質が皿にくっつくからだ」と考えた。

【実験】サトイモの葉に水滴を載せ、食塩、砂糖と接触させて様子を観察する。

〈結果〉

 接触した水滴は、形が崩れて広がった。

《まとめ》

 水滴に溶けている物質が皿に付着したことで、次に接触した水滴が広げられ、転がらなくなる。

《追究5》液体の種類によって転がる温度が違うのはなぜか

【実験】水と砂糖水、食塩水、炭酸水、穀物酢、食用油で沸騰する温度や様子を調べる。

〈分かったこと〉

 炭酸水は泡が低い温度で出る。食用油は沸騰しない。砂糖水、食塩水、穀物酢は100℃を超えて沸騰する。

《まとめ》

 砂糖水、食塩水、穀物酢は沸騰する温度が高いため、転がる温度が高くなる。食用油は沸騰がないため転がらない。炭酸水は二酸化炭素を含み、それが加熱によって出てきて浮くことを助けるため、転がる温度が低い。

〈発見〉

 たくさんの水滴を加熱した皿に垂らすと水滴は合体し、行ったり来たり往復運動をして、回転もしていた。往復運動が収まったとたん、水のかたまりは「たわら形」や「三角形」「四角形」などになった。

《追究6》水のかたまりが往復運動や回転運動をするのはなぜか

 ◇往復運動:皿に傾斜があるのか、水準器で調べた。わずかに傾斜があった。でも傾斜が原因なら、水のかたまりは一番低い所で止まり、往復運動をしないはずだ。「ふりこ」のような動きをしていることに気がついた。

【実験】ゆるやかな谷のように中央がたゆんだ直線レールに鉄球を転がし観察した。鉄球はふりこのように往復運動をしたが、やがて止まった。

 ◇回転運動:水滴が合体する時のわずかな回転運動が、皿との摩さつが小さいために続いていたのかもしれない。

【実験1】回転運動を与えないように、注射器で静かに水を注入しながら皿の上に水のかたまりを作ったが、回転運動をした。

【実験2】下から空気を噴き出しながら平面上を浮いたように動く「エアホッケー」の半球形の玉に、手で回転運動を加えてみた。

 すぐに回転は止まった。水のかたまりは形がゆがんでいるので、玉に油粘土を付けて重さのかたよりを作り、回転させた。玉は回転運動を続けた。

《まとめ》

 水のかたまりは、皿の一番低い所を行きすぎ、また戻って行きすぎることを繰り返して往復運動をしている。水のかたまりの重さのかたよりが原因で回転運動をしている。

《追究7-1》水のかたまりは、どんな形に変形するのか

【実験】大きな水のかたまりが、小さくなる時の変形パターンを調べる。

〈方法〉

 加熱したステンレス皿に直径約1.5㎝の水のかたまりを作り、VTRカメラでスロー撮影した。

〈結果〉

 6つの変形パターン(たわら形、トースト形、十字形、おむすび形、六角形、星形)が出現した。トースト形と十字形、六角形と星形は互いに変形している。

〈気づいたこと〉

 たわら形は往復運動中だけのパターンで、他の5つの変形は、水のかたまりが直径1㎝以下になって静止してから始まる。1回の実験中にすべての形が見られる時、見られない時がある。

《追究7-2》水のかたまりがいろいろな形に変形する原因

仮説:水が蒸発している時の「振動」が水を変形させているのでは?

 サトイモの葉に水滴を載せてスピーカーのコーンに取り付け、いろいろな高さ、大きさの音を出して調べた。6パターンのほかに五角形や七角形、いがいが形などさまざまな形ができた。

〈分かったこと〉

 水滴が大きいと変形の角が増える。音が高いと変形の角が増える。水滴が大きすぎたり、小さすぎたりしても変形しない。かなり大きな音にしないと変形しない。
 次に加熱した皿が振動しているのかを調べた。水滴の近くに鏡を置き、レーザーポインターの光線を反射させてスクリーンに映し出した。映した光線は動いていない。仮説は否定された。

仮説:水滴の下から水蒸気が噴き出し、水滴を変形させているのでは?

 水滴の周りを線香の煙、水を調べる塩化コバルト紙、サーモカメラで調べたが、水蒸気を噴き出している様子は観察できなかった。「水滴の中の動きを見れば分かるかも」と、皿の上に鉄粉をまき、水滴を鉄粉に近づけて取り込ませ、VTRカメラで撮影した。鉄粉は水滴の内部で縦に回転していたが、変形を引き起こすほどの強い動きではなかった。
 加熱した皿の水滴を詳しく観察していて発見した。水滴は皿の表面で弾んでいた。

仮説:皿の上で弾み続けることで、水滴が変形しているのでは?

 水風船を、マッサージ器で激しく振動させた場合と、上から落とした場合とで変形の大きさを比べた。上から落とした方が変形が大きい。水風船の変形は、表面の「膜」の変形であることにも気づいた。

仮説:弾み方のリズムが変わると、水滴の表面にできる膜の変形のパターンが変わるからでは?

 スピーカーにゴムひもを付け、いろいろな音による変形を調べた。

〈分かったこと〉

 音が高いほど山の数が増える。音が大きいほど、山が大きくなる。

《まとめ》

 水のかたまりは6パターンなどに変形する。水滴は、蒸発によって弾み続けることで変形する。水滴の大きさ・弾み方の強さ・弾み方のリズムなどの条件が組み合わさって、さまざまな形を作っている。

おわりに

 身近な現象にも、まだまだ分からないことが多いことを知り、自然の奥深さを感じました。

指導について

指導について愛知県刈谷市立住吉小学校 加藤 みさ子

 私は「当たり前の現象」の中に隠されている科学に注目するようにと、いつも子どもたちに語っています。そんな中、彼女たちは加熱されたフライパンの上で転がる「水滴」に注目しました。追究は困難を極めました。水滴はとても小さく、しかも加熱されているため、接近して観察することがなかなかできませんでした。彼女たちは、家族や先生のアドバイスを受け、チーム内で何度も話し合いを繰り返しながら、さまざまな仮説を立てて検証実験をしました。指導していく中で一番心がけたことは、「小学生らしく」ということでした。常に彼女たちと話し合いながら、彼女たちの理解を超えないように、ていねいに追究を進めていきました。
 今回、彼女たちの努力を認めていただき大変感謝しております。
今後も、一人でも多くの子どもたちに自然を追究する楽しさを感じさせたいと思います。ありがとうございました。

審査評

審査評[審査員] 小澤 紀美子

 日常でよく目にする現象「熱くなったフライパンの上を水滴が転がる」ことに気がついて始めた4名の共同研究です。水滴が転がり始める温度を水滴の様子である程度押さえ、さらに繰り返し同じ場所で実験していくと転がりにくくなることを予備実験でつかみ、実験検証のプロセスをしっかりと押さえていますね。そして次の「問い」、水以外の液体はどうなるのか?なぜ転がるのか?を実験によって確かめ、水のかたまりが往復運動や回転運動が生じる状況を見いだし、さらに水の固まりの形状を見いだしている実証実験により水が蒸発している時の「振動」がその要因ではないか?という新たな仮説に基づいて実証実験を繰り返しています。いろいろな教科で学んだこと、ご家族、先生、博物館で見たこと等をたぐり寄せて仮説検証を進めているすばらしい実証研究です。皆さんで次の疑問・課題を出していますので、再度、挑戦した作品を期待しています。

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