第49回入賞作品 中学校の部
2等賞

牛久の自然IV 過去・現在・未来,牛久沼の変遷を追う

2等賞

茨城県牛久市立牛久第三中学校科学部 3年・2年・1年
吉田 香里 他18名
  • 茨城県牛久市立牛久第三中学校科学部 3年・2年・1年
    吉田 香里 他18名
  • 第49回入賞作品
    中学校の部
    2等賞

    2等賞

研究の動機

 平成17年度から「牛久の自然」をテーマに、学校周辺の谷津田や牛久沼、その流入河川(稲荷川、根古屋川)などの環境や水質を継続的に調査し研究を行っている。牛久沼は日本で2番目に汚い沼だったことから、昨年は牛久沼の再生のための研究を行った。今回もさらに研究を継続した。

研究のねらい
野外調査によって、トンボ、植物、水質の面から現在の牛久沼の姿をとらえる。
主に文献調査によって過去の牛久沼の理解を深め、目指すべき姿をとらえる。
過去と現在の比較により牛久沼の問題点を考え出し、人と自然が共生する未来予想図を構築する。
植物の浄化能力に関する実験を行い、牛久沼で行う具体的な方法を探る。
調査1:現在の牛久沼と周辺環境

〈調査地点〉

谷津田A(学校の西側に広がる。耕作田と休耕田がモザイク状に入り組む)、谷津田B(学校の南側にある。ほぼすべてが耕作田。林に囲まれている)、谷津田C(谷津田Bの南側にある。休耕田や荒地になっている場所が多い)、牛久沼(学校の南に位置し、最大水深3m、平均水深1m)、稲荷川、根古屋川、ビオトープ(校舎の北側、谷津田Aの上手に位置する)、プールビオトープ(使われていない学校プールをビオトープ化。再生モデル実験としてかつての牛久沼の植物を導入し、調べている)。

〈1〉トンボ調査

全体で次の12種類のトンボが見つかった:アオモンイトトンボ、ウチワヤンマ、オオシオカラトンボ、オニヤンマ、ギンヤンマ、クロスジギンヤンマ、コシアキトンボ、コフキトンボ、シオカラトンボ、ショウジョウトンボ、ノシメトンボ、ハグロトンボ。
〈谷津田A〉ノシメトンボがあまり見られなかった。昨年よりも調査回数が減り、調査時期もずれたためかもしれない。他の調査地点に比べ、トンボが多く見られるが、ヤゴは発見できない。アメリカザリガニ、ウシガエルがいるからだろう。
〈谷津田B〉発見したトンボの種類が少ない。ほぼすべてが耕作田と、環境が単純だからではないか。オニヤンマの成体とヤゴが発見されているので、ここが発生地となっている可能性が高い。
〈谷津田C〉コシアキトンボ、オニヤンマが、ヨシやセイタカアワダチソウの上を飛んでいた。このような丈の高い植物の場所なので、空高く飛べる種類のトンボが多く発見できるのだろう。根古屋川沿いの道を歩くと、多くのシオカラトンボのメスが飛び立った。田んぼではオスを多く見かけたので、好む場所に性差があるのかもしれない。

〈2〉植生調査

〈谷津田A〉抽水植物は多いが、浮葉植物や沈水植物は見当たらない。陸で多いのはセイタカアワダチソウ、ほかに12種類以上の陸生植物が生えている。
〈谷津田B〉ほとんどが耕作田。水路では沈水、抽水植物が見られたが、多くはない。浮葉植物は見られなかった。セイタカアワダチソウが点々と生え、ほかに谷津田Aほどではないが陸生植物も生えていた。
〈谷津田C〉休耕田のほとんどがヨシやセイタカアワダチソウで、ジャングルのようだ。ヨシなどの抽水植物の群生地は、湿地のように足元がぐちゃぐちゃしている。
〈牛久沼〉水質が悪く、浮葉植物、沈水植物はあまり見られなかった。護岸工事が施された所には、少ししか抽水植物が生えていない。陸生植物ではセイタカアワダチソウが多く、ほかに11種類以上の陸生植物が生えていた。
〈ビオトープ〉冬(12月~2月):植物が枯れ、水中に沈んで腐りかけている。生き物もほとんど見られない。春(3月~5月):水面いっぱいに小さいアサザの芽が広がった。ミクリやマコモ、フトイなどの抽水植物も生え始めた。夏(6月~8月):フトイが長く広く生え、虫も多く見られるようになった。マコモがビオトープの中央まで生えてしまったので、まわりに抽水植物、中央に浮葉植物が生えるように整備した。秋(9月上旬):夏の間に周りには雑草が茂り、鬱蒼としていたので、草抜きをした。ビオトープに元からあった植物を残してすべて刈り取った。1週間もしないで、茶色の地面部分から新たな芽が出始めていた。

〈3〉水質調査

21地点のパックテスト〈COD〉昨年に比べ、全体的に20㎎/L超の地点が増えている。牛久沼では8地点中6地点で20㎎/Lを超えた。特に乗船調査では100㎎/Lという値だった。〈pH〉アルカリ性を示す地点が多かった。牛久沼でpH9の地点、乗船調査でpH5.5もあった。〈PO4〉ほとんどの地点は、ちょうどいい値(0.05㎎/L以下)だった。しかし牛久沼、乗船調査では0.2㎎/Lの値だった。汚染がひどく生活排水によるリン酸の増加と考えられる。〈溶存窒素〉NO2は、根古屋川、三日月橋、谷津田Bで0.1㎎/L。NO3は根古屋川と三日月橋で10㎎/Lだった。〈NH4〉牛久沼乗船調査4地点すべてが0.5㎎/L以上、うち1地点で2㎎/Lだった。
微生物調査:牛久沼、谷津田、ビオトープで採水。全体で22種類、ビオトープだけで8種類を見つけた。
調査2:過去の牛久沼の姿

昭和46(1971)年~昭和49(1974)年の植生、水質、漁獲量について資料調査。さらに牛久沼漁業協同組合の大野清・副組合長にインタビューした。

調査3:牛久沼の過去と現在の比較・未来予想図の構築

〈1〉牛久沼の過去と現在の比較

抽水植物は変わらずに生えている。オニバス、アサザなどの浮葉植物は姿が見えなくなった。イバラモやセキショウなどの沈水植物は完全に死滅し、マコモは個体数が激減した。これらは大規模な環境変化による。護岸工事や生活排水のために植物の生息域が減り、透視度の悪化により沈水植物が消えたのだろう。
植生を過去の状態に戻すには、生育域の確保、そのための日光、水質、土壌の改善が必要だ。
水質のうちpHの平均値は過去と現在で特に変わってはいないが、CODは現在の値がはるかに大きい。やはり過去の方が水質は良好だった。水質汚濁の原因は昭和28(1953)年頃からの河川改修だといわれる。過去から現在にかけて、水質はさらに悪化し続けている。

〈2〉未来予想図

牛久沼の再生には、まず透視度の改善が必要だ。そのために抽水、浮葉、沈水植物を利用する。水深1m以下の浅い水域や岸辺にはガマやヨシなどの抽水植物、水深1m以上の水域にはアサザやジュンサイ、オニバスなどの浮葉植物が生息できる。さらに沈水植物は透視度さえ高ければさまざまな場所で生息できるので、沼中央部の水深2m前後の水域での生息も可能だ。植生の増加に伴って水質が改善され、透視度もよくなる。そうすれば沈水植物も増加し、さらに水質は浄化されるはずだ。現在は少数となった魚類や鳥類、貝類や昆虫類などの動物も、再び繁殖する。在来種の好む環境となって、生息域から外来種が追い出される可能性もある。それにより、過去のように整った食物連鎖が完成し、再び多彩な生態系が織りなされるのではないか。

調査4:植物の浄化能力の実験

牛久沼の水質浄化に植物が利用できるか、その浄化能力を確認する。

〈方法〉

衣装ケースの底に土、さらにプールの水を入れる。抽水植物のマコモ、浮葉植物のアサザ、沈水植物のマツモを植え(7月15日)、水質の変化を7月22日、8月18日にパックテストで測定した。

〈結果と考察〉

はっきりした結果は出なかった。入れた植物の量、蒸発で減った水の補給量、測定回数など、実験の条件や方法にいろいろな問題があった。

感想と課題

 今年度も牛久沼の環境改善の様子はなかった。昨年から提唱している「牛久沼再生への道」-抽水植物を増やす水が浄化される透視度が上がり、沼底まで光が届く沈水植物が育つ水がさらに浄化される多様な植物が多様な環境を織りなすようになり、さまざまな生物が住めるようになる~について、研究を深めていきたい。

指導について

指導について牛久市立牛久第三中学校 高野朋子

本校は牛久沼のすぐそばに位置し、周辺は谷津田に囲まれています。そういった自然豊かな環境を研究の場とし、科学部の生徒たちは、日々のびのびと活動を行っています。
  本研究は、汚染が進んでしまった牛久沼の再生を目指すことを目的としています。4年目となった今年度は、特に過去・現在・未来と時間の流れに着目し、牛久沼の変遷や、今後どのような牛久沼が望ましいのか、話し合いを重ね考えていきました。また現在の牛久沼周辺の環境に関しては、氷の張る寒い冬の日から、日差しの照りつける暑い夏の日まで、虫取り網と水採集用のペットボトルを片手に8カ所にも及ぶ広範囲での野外調査を行いました。こうした活動により、自分たちの住んでいる地域の自然環境を知り、人と自然が共生できる環境を創っていきたいという考えが育っていったことは大きな成果と考えています。ぜひこの志を後輩たちにも引き継いでほしいと考えています。

審査評

審査評[審査員] 加藤惠己

 数年にわたって牛久の自然についての調査、研究を継続し、受賞となりました。おめでとうございます。
  本研究は、自分たちにとって身近な環境である牛久沼が「汚い」ことを知り、その再生への道筋を示すことを目指して始まりました。トンボの分布等、植生、水質について調べ、今年度は、牛久沼の過去の状況について文献等の調査を行ったり、水生植物による水質浄化実験を行ったりしました。きめ細かな調査を長期間継続した粘り強さには敬服します。ただ、大人数で行ったことの影響でしょうか、それぞれの調査結果についての考察が個別化する傾向にあり、これらを総合的に評価し考察することがやや不足しているように思われました。今後は、前年度論文で「牛久沼再生への道」に記していたように抽水植物に絞って、その導入の効果を分析的に調べていくなどして、最終目標に近づくことができるよう頑張ってください。

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